なちかちゃんがいなくなった後、私は少しずつ新しい友達ができ、気づけば彼女のいない日常が当たり前になっていた。
それでも、ふとした瞬間に「もしなちかちゃんがここにいたら」と思うことはあり、そのたびに胸が締めつけられ、自然とため息がこぼれた。
けれど私は、その「何か」を心優しいなちかちゃんが見えないところから私をそっと見守ってくれている証だと信じるようになってからは寂しくなくなった。
その頃の私は、「四十九日」という言葉の意味を知らなかった。ただ一つ、確信していることがある。確かにその日、なちかちゃんらしき「何か」が動き出したのだ。
夜になると、リビングから微かな物音が聞こえることがあった。棚が軋む音や、何かが動いた気配。それらはいつも遠くで起こり、私のいる空間には決して近づかなかった。だが、その夜だけは違った。
深夜、家中が静まり返る中、リビングの床板が軋む音が聞こえた。ギシッ、ギシッと響くその音は、確実に寝室の方へ向かっていた。最初は風のせいかと思ったが、次第にそれが錯覚でないことに気づいた。その音は、生身の人間が立てるような重く湿った響きだった。
足音はゆっくりと私の部屋に近づき、やがてぴたりと止まった。私の部屋の前で一瞬の沈黙が訪れた後、音は突然、激しく動き始めた。まるで「見つけた」とでも言うように一気にこちらへ駆け寄ってきた。その速さは明らかに人間のものではなかった。
足音が止まったのは、私の顔のすぐ前だった。
全身が凍りついた。暗闇の中でも、鋭い視線をはっきりと感じた。その視線は冷たく、私の顔に突き刺さるようだった。何かが私に触れようとしている感覚があり、私は本能的に布団を頭まで被り、体を縮めた。
すると布団越しに冷たい感触が伝わり、次いで何かが布団を叩きつけてきた。鋭い力が私の体を押さえつけ、息が詰まるほどの圧力がかかった。全身が硬直し、声を出すこともできなかった。ただ、朝が来るのをひたすら祈った。
ようやく朝日が部屋を照らしたとき、恐る恐る布団を剥ぎ取った。目に飛び込んできたのは、手首に残された赤黒い手形だった。それは明らかに誰かに強く掴まれた跡だった。
私は震えながら呟いた。「あれは、本当になちかちゃんだったの…?」
優しく微笑むなちかちゃんの顔が脳裏をよぎった。だが、あの穏やかな彼女がこんな暴力的なことをするはずがない。
それ以来、物音も足音もぱったりと消えました。母に話すと、「なちかちゃんがお別れを言いにきたのかもしれないね」と諭されましたが、私はどうしても信じられませんでした。
あの存在は本当に彼女だったのか?
それとも、私が彼女の死を受け入れられずに生み出した「何か」だったのか?
もしかしたら、わずか6歳でこの世を去った彼女が、一人で逝くのが怖くて私を道連れにしようとしたのではないか?
でも、手首に残る腫れは、言葉よりもはっきりとしたメッセージを物語っているようでした。
「絶対に逃がさない」と。
ーーあなたなら、この出来事をどう思いますか?