「誰か、 中島さんのお葬式で追悼の言葉を読んでくれる人はいませんか?男子と女子ひとりずつ。」
担任の先生がそう尋ねた瞬間、教室には一瞬の静寂が訪れたが、すぐにそれを破るようにたくさんの手が挙がった。午後の授業が免除されるということもあり、思いのほか多くのクラスメイトが立候補したのだ。
私は、少し迷っていた。人前に立つのが得意な方ではないし、追悼の言葉を読めば、なちかちゃんが本当にいなくなったことを実感してしまうのではないかと思ったからだ。それでも、彼女とは親友だった。最後に何かをしてあげたいという気持ちが、私を動かした。
みんなが次々と手を挙げる中、少し遅れておずおずと手を挙げると、担任の先生がすぐに私を見つけて微笑んだ。
『 橘さんは、中島さんと一番仲が良かったわよね。お願いできるかしら?」
私は小さくうなずいた。その瞬間、クラス中の視線が私に集まった。男子の方は、白石君が選ばれた。彼はクラスで一番背が高く、女子にとても優しいことで有名だった。実は、なちかちゃんがずっと思いを寄せていた相手でもあった。彼が隣にいることに、なちかちゃんが喜んでいるような気がした。
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葬儀の会場には、たくさんの黒い服を着た人たちが集まっていた。涙を拭う私のお母さんの姿も見える。なちかちゃんの小さな棺が中央に置かれ、その周りには花が溢れていた。彼女の名前を呼ぶ声が会場に響いている。
棺の中で眠るなちかちゃんの姿を見つめたとき、胸がぎゅっと締め付けられた。こんなに小さかったっけ? いつも明るくて元気だった彼女が、今はただ静かに目を閉じている。どこかで「また明日」と笑顔で手を振ってくれるような気がしていた私は、やっと彼女の死を実感し始めていた。
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私の順番が来た。震える手で手紙を持ちながら、ゆっくりと前に出ると、会場全体の視線が集まった。深呼吸をして、声を震わせながら読み始めた。
「なちかちゃん、たくさんの思い出をありがとう。」
読み進めるうちに、涙が止まらなくなった。前を見ると、最前列でなちかちゃんのお母さんが肩を震わせて泣いていた。その姿を見た瞬間、私の中で何かがはじけた。
(ああ、本当に彼女はもういないんだ)
隣に立つ白石君も、顔を真っ赤にして涙を拭いている。その姿に、なちかちゃんの片思いの話を思い出した。彼女には、まだやりたいことや夢見ていた未来がたくさんあったはずだと思うと胸が締めつけられた。
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お通夜が終わると、黒くて長い車がなちかちゃんを迎えに来た。そのとき、なちかちゃんのお母さんが泣き叫ぶ声が響いた。私はその光景をただ呆然と見つめながら、心の中で彼女に話しかけた。
(なちかちゃん、もう会えないんだね)
その日、私はなちかちゃんがもう戻らないことを、痛いほど深く理解した。