それは本当に突然の出会いだった。
入学式の時、私は大切なキーホルダーを落としてしまって、慣れない校内をうろついて探していた。
そのキーホルダーは亡くなったおばあちゃんが最期にくれた、所謂形見ってやつだ。
私は泣きながらも、転びながらも、壁にぶつかりながらも探した。すごくすごく大切だったから。
3年生の校舎に入ろうとした時だっただろうか。私の体が宙に浮いた。
恐る恐る振り向くと、そこには怖そうな人がいた。多分先輩だろう。
先輩はドスのきいた声で私に説教をした。

「お前、新入生か?新入生なら聞かなかったか、他学年の校舎には足を踏み入れてはならない、と。それともお前の耳は飾りか?わが校の先生方が足を踏み入れてはならないというルールを説明しないはずがないが。」

本当に怖かった。そんなルール、聞いてすらない。だって私は緊張で話が頭に入らなかったのだから。
私が震えながら説教されていると、どこからともなく人が現れて私の前に立った。
男の子だった。手には私のキーホルダーが握られている。もしかして、拾ってくれた―?

男の子は振り返るとにっと悪戯っぽく笑ってキーホルダーを私のほうに投げた。
私は必死にそれをキャッチし、男の子のほうを見る。どんな顔か、それだけでも覚えて恩を仇で返さないようにしないといけない。
―彼はとてつもなく美しい顔の持ち主だった。
その時、私は全身に電気が走ったような衝撃に見舞われた。
そして、私は自覚した。自分が彼に一目ぼれした、ということを―。

先輩の存在なんて忘れて、私は彼に夢中になっていた。彼が去ろうと私の前から動く。
私は必死に話しかけようと頑張ったが、緊張してできない。初対面の人に話しかけるなんて絶対無理だ。
だが、このまま恩も返せずに別れるわけにはいかない。せめて名前だけでも、と口を開いた。

「あ、の..!えー..っと..あのぅ..あぁ..あう..お、お名前教えて下しゃいっ!!!!!」

―最悪だ、挙動不審になった上に嚙んだ。もう終わりだ。
私が肩を落としていると、彼は何かを言った。名前、だろうか。
私が顔を上げて彼の顔を見ると、彼は楽しそうに笑っていた。良かった、引かれてない..!
彼はもう一度口を開いた。

「俺は薔薇成 雪兎って言うんだ。じゃあね!」

それだけ言うと走ってどこかへ行ってしまった。私もつられるように校舎付近から去った。
当時、私は気づいていなかった。彼を本格的に愛してしまったことも、これから腐った愛が生まれることも―