原因のわからない痛みを感じたら、あなたは失っている可能性がある。
午前七時二十一分、未世弥駅発の同じ電車に乗るKさんは、空席があったとしても立つことを選ぶという。
それは健康のためではなく、自衛のためだ。
二週間ほど前、運良く席に座り、半ば眠りに落ちたとき、突如として痛みを感じた。
それはたしかに手から発する痛みだったが、手のどこかは分からなかった。
「幻肢痛ってあるらしいね、それっぽい?」
いくら確認しても、異常は見当たらなかった。
傷はもちろん、血もなかった。
以来、Kさんは自らの手を確かめることが多くなった。
己の手の形に違和感があるのだという。
「あのとき、座って寝ている間に、誰かに切られて、取られたんだと思う」
自らの手を翳して確かめながら、Kさんは言う。
「私のだけじゃなくて、全員のを」
その指四本だ。
誰もがそうであるように。