そうした可能性もある。

海外からの移住者であるＺさんには、悪癖があった。

「良いことじゃないは、わかっているです。でも、気づけば手元にものがある」

たとえばスーパーで買い物をしていても、持った大根を精算しないまま通過する。
店員に止められれば素直に支払うが、時には手にしたまま家に帰る。

「本当に、どうにかしたいです、本当に」

最近ではミトン型の手袋をつけることで低減しているが、夏はそうもいかなかった。

「ある日、鍵のない自転車を引きずっていました、私のやったことですが、本当に、なに考えているですか……」

急いで戻したが、同じ場所である確信はなかった。

「申し訳ない……」

外出時はできるだけポケットに手を入れていた。
効果は無かった。

「ある時、ブロックを持ってました」

家のブロック塀の一部だったという。

「阿左美通りを歩いていましたから、そこと思います」

周囲と接合されていたはずだが、新品のように綺麗だった。

「だめな？　いえ、へんな、ブロックでした」

室内に放置したブロックに、友人が足を引っ掛け転倒した。
友人は、何もない所で転んだと主張した。

「他から、見えないブロックでした」

ブロックを座っている友人の腿に乗せれば、なぜか身動きが難くなったと述べた。
友人は、その重さや硬さを感知できなかった。

「面白い。私はそう思いました」

この性質は、どこまで分解すれば効果を失うのだろう。

工事現場で働いていたＺさんは粉砕機を借りた。
粉々の状態のそれを、様々なものに混ぜ入れた。

看板の染料や、鉄製品や、コンクリート製品などに試した。
それらは通常とは異なる性質を帯びた。

看板は人から見えなくなり、作り出した釘は別のものを穿ち、ナイフで斬ったものは存在を消した。

「……失敗、したです」

あちらこちらに顔を出し、サンプルとして提示し交渉する途中、Ｚさん自身も吸い込んでしまった。

「誰も、私、見ない」

人間から認識されなくなった。
想像していたよりもずっと危険だ、同じ被害者を増やしてはいけないと、封じようとした。

燃やすわけにも水に流すわけにもいかない。
粉状でも効果があった以上、それはただの拡散だ。
コンクリートにすべて溶かし込み、元の状態に戻そうと考えたが、できなかった。

「……なくなってました、あれ、まだまだあったのに」

粉砕したブロックが認識できなくなった。

「町が、妙求市が、おかしくなりました」

阿左美通りから始まり、異変は徐々に移動した。

「……誰かが、あれをばら撒いてます」

Ｚさんではなかった。
無意識に何かを手にすることはあっても、無意識に手放すことはない。

様々な事柄が変化した。
認識できないものが増えた。

「いろいろ、ヘンです。けど、一番ヘンなのは、あなたです」

市職員を睨みつけるＺさんさんに、その意味を問いかけると、叫ぶように言った。

「どうして、私が見えるんです！　どうして、変わったことをそんなに簡単に見つけられるです！　どうして、対処課があるです！　前は、私がブロックを持つ前は、それは無かった！」

落ち着くよう伝えたが、Ｚさんはあまり聞いてはくれなかった。
したがって、対処した。

Ｚさんは現在、行方不明者リストに名前が乗っている。