市職員は、あなたを手伝えない可能性がある。

近頃、話題になっている人物がいる。
周合(しゅうごう)公園から阿左美通りの、早朝もしくは夜間に現れ、足踏みのような動作をするのだという。

「なによ」

妙求処理課は、該当人物であるAさんに聞き込み調査をした。

「あんたも文句あるの?」

Aさんは足を大きく上下させ、枯れ葉を一つずつ丁寧に踏んでいた。
理由を尋ねると、不機嫌ながらも答えてくれた。

「だから、枯れ葉の裏にいるのよ、何かが」

最初は偶然だったそうだ。
帰宅途中、乾いた枯れ葉を踏んだ際に、奇妙なものを踏みつけた。

「よく、こう、わかんないけど、凄い嫌な感触だったわ」

ネズミの類かとも思ったが、違ったそうだ。

「だって、そういうのって甲高い鳴き声出すでしょ。けど、あたしが踏んだのは喋ったのよ。低い声で「なんだよ、痛えな」って」

道路はもちろん、周合公園の大半もコンクリート舗装されており、枯れ葉との隙間に人が隠れられるスペースはない。

「何かは分からない。分からないんだけど、あんな気色悪いのは、踏み潰さなきゃいけない」

それでも、ここまで徹底して行う理由は、Aさん自身にも上手く説明ができないようだ。

「だって、だって、駄目でしょ、あんなのが近くにいていい訳がないじゃない。踏んで思い知らせなきゃいけないでしょ。そんなの常識よ。むしろ、どうしてあたし一人しかやってないの。信じられないわ」

Aさんは道幅を横切るように踏みつけ、折り返してはまた踏みつける動作を繰り返した。

「大変よ、朝だけじゃ終わらなくて、帰ってから続きをしてるわ」

納得できるまで確認するのは、時間がかかるのだそうだ。

「欲しいのは安心だわ。あれが近くにいないって確信したいの」

近所の人たちから忌避されても続ける理由だ。

「あたしはみんなのためにやってるの。絶対にあたしに感謝するときが来るわ」

Aさんが一つずつ丁寧に踏みつけている最中に、枯れ葉が風で動いた。
ゆるやかなものであるため、枯れ葉がわずかに移動しただけだったが、それらは止まると同時に声を発した。

 ねえよ。

男とも女とも取れる低い声だった。
数十以上の枯れ草の下から一斉に聞こえた。

Aさんは半狂乱になりながら踏み潰し、「手伝って、手伝って!」と処理課職員に要求した。
市職員は見守り続けた。