──突然だった。
 
「力を貸して……!」

 地上ではない闇の中。
 枯れ果てた木の上でいつものように眠り呆けていたら、女の泣きすがるような声が聞こえた。

 声色からして、そう歳はいっていないだろう。
 二十歳? いや、もっと──。

 考える間もなく、その声の主の元へと導かれるように身体が消えていく。

 小さくため息をつき、黒く長い髪を一度かきあげた。
 青い瞳は、透き通っていく手のひらを傍観(ぼうかん)している。

「悪魔を召喚するなんて、どこのどいつだ」

 冷たく微笑んだ悪魔は、そう呟いた。