窓の外を、雪が降り始めた景色が通り過ぎていく。

「はぁ」

思わずため息が漏れてしまう。

目を瞑れば昨日の事のように鮮明に、あのときの事が蘇って来る。
 つい、一週間前、

天宇(あまう)さん!!大変!貴女のご家族が、事故に遭われたって」
 先生が、焦って言いに来た。

「とりあえず、職員室に来て」

 職員室へ向かうと、先生にこんな事を言われた。
「これからどうする?授業抜けて、ご家族に会いに行ってもいいんだよ」

んー、どうしようかな、でも、病院は学校から見える距離。
そしたら見に行った方が良いかもしれない。気になる事も気になるし。

「じゃあ、家族に会いに行きます」

「わかった。タクシー呼んでおくから」

ありがとうございます、と伝えると、先生に促された通りに私は校門の方に向った。

交通事故、か。実感というのが、あまり湧かない。まあ、心の何処かでどうせ大丈夫、きっと返ってくる、なんて思っていたんだろう。本当に考え無しだった。

お母さんは、元気な人だった。だから病院から退院したら、「いやー、お父さんって危なっかしいからね」みたいなことを言うだろうと思った。

お父さんは、優しい人だった。きっと、「もう本当、死んじゃうかと思ったよ」って言って帰って来るんだろう。

お兄ちゃんは、意地悪だった。でも、何より家族の事を大切に思ってるのは知ってる。どうせ、「カグが乗ってたら巻き込めたのに」とか言ってからかってくるんだろう。

本当、良い家族だった_。だからこそ、

「ご家族の方は、全員死亡が確認されました」
この言葉を、嘘だと思った。

思いたかった。

だからこそ、悲しかった。

でも。
涙は何故か出なかった。

結局、私はおばあちゃんの所へ行く事となったのだ。

「カグちゃんと一緒に住めるなんて、夢のようだわ」

おばあちゃんはそう言ってくれたけど、私は嬉しくなかった。どころか、少し嫌だった。だって、おばあちゃんの住んでいる村_青森県の、八差技町(やさぎちょう)では、怪奇現象が起るという噂があったからだ。でも、拒否する事は出来ず_

今は新幹線の中。
たった少しの荷物を持って、私は引越すことになったのだ。

「ようこそ、青森へ」

えっ!?此処ってこんな田舎なの!?

私を待ち受けていた場所。
それは、あまり人の住んでいない村だった。
______________________________

「し、失礼しまーす」

「ようこそカグちゃん、これから宜しくね」

慣れない所だった。驚く程、人はいないし、家も今時珍しい木造建築だった。
家は本当に住んでいるのは老婆一人なのかと疑う程広い。
おまけに学校まで1時間程かかるというのだ。

私の部屋だと通された所はまるで神様がいるかのような、広くて綺麗で豪華な部屋だった。
「此処、本当に私の部屋でいいの?」

「ええ、ええ。カグちゃんが好きなようにしていいのよ」
おばあちゃんは、何処か私に気を遣うようだった。これでは私も落ち着かない。

おばあちゃんが自分の部屋に戻ったあと、どうすれば良いか分からず、部屋の隅で小さく座っていた時だった。
「ったく、あの婆さんから隠れるのも一苦労だな」

壁から、5歳くらいの小さな坊主の男の子が出てきた。
(かいり)、仮にもこの家の家主なのですよ、私語は慎むように」

小鈴(こすず)さんも厳しいって!あのババアは、オレ等の存在まだ知らねえんだろ?」
続いて20代くらいの女の人と、私と同い年くらいの男子が出てきた。

何で壁から!?てか壁ってあんな簡単にすり抜けられるものっだったっけ...?
「あ、あのっ!貴方達は、、」
思い切って声を掛けると、坊主の子が喋った。

「お前、おいら達が見えるのか!?」

「ホントかおい!」
続いてもう一人の男子が言った。

すると、女の人は私の存在に気付いたような素振りをして近づいてきて話し始めた。
「急に驚かせてしまってすみません、本当なのかと思われるでしょうが、我々はあやかし、というものなのです」

_は?

思わず声が漏れてしまった。
「え、それってあの、一つ目小僧とか、のっぺらぼうとかの?」

「そう思われることが多いんですが、我々は至って普通の人間とは変わらないのですよ。唯一違う所は_ 」

「人間との契約だ」
続けるようにしてさっきの、坊主じゃない方の男子が言った。
「オレ等あやかしは、選ばれし者にしか見たり、触ったりすることのできない特殊な存在だ。だから、そんな選ばれし者を”神”として契約をする事で、現世に留まって生きるんだ」

そして私の方をちらりと見てから言う。
「オレ等の主人_つまり、オレ等にとっての”神”が先月亡くなってな、新しい”神”の存在を見つけないと、今月中に地獄送りされちまう」

「だから、新しい”神”を探すために、旅をしていたのです」
締めくくるようにして女の人が言った。

「あのババアもオレ等のことが見えるらしいんだけどな、なにせババアだから」

すると、見兼ねたように坊主の子が言った。
「おめえがおいら達の神様にはなれねえのか?」

「浬!」

「だって、歳も若いしおいら達が見えてる。おいら達は数日ここから動く体力もねえし、、」


そして、頼み込むようにして言った。
「お願いだ!おいら達の神様になってくだせえ!」

※このお話はフィクションです。途中出てくる地名等は、架空の物ですので、御了承ください。