タクシーを呼び、廃墟の敷地に着いた頃には日付が変わっていた。おそらく営業当時に駐車場として使われていたであろう建物脇の空き地で停めてもらい、ドアを開けた。敷地に足を下ろしたジャリっという感覚と同時に悪寒がした。
 周りに明かりはほとんど無く、スマフォの懐中電灯機能で前方を照らした。林先輩の言っていた通り、広く雑草が生い茂っていて、ゴミもそれなりに散乱しており、それを蹴り分けて進む。
 石田の名前を呼びながら、正面玄関らしき場所に着いた。返答はない。初めてこの廃旅館に自分の足を踏み入れた興奮よりも、流石に恐怖心の方が強かった。
 石田は居ないかもしれない。いるという確証は当然ない。居たとしても冷静に連れ戻せる自信もそこまでない。しかしあのメッセージを受け取ったからには進むしかない。
 できるだけ冷静を保ちつつ、1階を探索することにした。3年前の部員体験談にあったような、地面の灰の山らしきものは見当たらない。足はすくむが、奥まで進んだ。壁に懐中電灯を向けたが、体験談にあった不気味な落書きも今のところ確認できない。
 入口まで戻り、2階に上がることにした。当時は受付や事務として使われていたであろう窓口のすぐ横に階段があった。階段は木製で、辛うじて崩れていない縁の部分を踏みながら慎重に上がった。
 さっきよりも空気が冷たく感じる。2階部分に着き、廊下の突き当たりの窓に目が行った。懐中電灯の光はそこまでは行き届いていない。窓の向こうで、なにか影が横切ったように見えた。
 そこで突き当たりの左の部屋の扉が少し開いた気がした。風は吹いていない。石田の名前を呼んでみたが、返ってくる気配はなかった。
 廊下を進み、少し空いた扉の隙間から明かりを覗かせたが、誰も居なかった。
 胸を撫で下ろした瞬間、背中側の部屋からとととととと、と足音がした。明らかに誰かが歩いている。林先輩の言っていた部屋だ。扉は無くなっており、中を照らした。カビの臭いがキツく、黒電話のようなものも見つからない。というより、床がほとんど無い。大部分が下に崩れ落ちている。これ以上進めない。
 諦めて戻ろうとした時、ふと懐中電灯で天井を照らしてみた。すると朽ちて穴が空いた部分から人の頭のような黒い影がこちらを覗いていた。
 その瞬間、後ろから背中を押され、崩れた床から下の階に落ちてしまった。すると上の階の至る所から、どんどんどんどんどんどんと足音がした。なんとか足を立たせ逃げるように入口まで走った。
 そのまま入口を抜け、全力で空き地に向かい走るが、待機しているはずのタクシーが見当たらない。そのまま必死で走っているうちにコンビニまで辿り着いた。
 深呼吸を意識し、飲み物を買い、少し落ち着いたところでタクシーを呼んだ。帰る道中も冷静ではいられなかった。
 なんとか家に着き、そのままベッドに倒れるように沈み込んだ。あれは何だったのだろうか。結局石田の姿は無かった。あのメッセージは何だったのだろうか。
 もう一度石田に、居場所を尋ねるメッセージを送った。すぐに既読がついたが返答はなく、そのままスマフォをベッドに放り投げ、座り込んだ。
 少し時間が経ち、落ち着いてきたところで、ひとまずパソコンの電源をつけた。デスクトップには、石田や僕や友人たちとの集合写真の壁紙が表示されている。
 そこで、ベッドに埋もれていたスマフォから通知音が鳴った。すぐにスマフォを手に取り画面を確認した。石田からだった。そこには、僕の家の住所が書かれていた。つまり、今いるこの場所の住所だ。
 そのとき、カタン、と玄関の方から小さく音がした気がした。扉の郵便受けが閉まるような音だった。
 時計に目をやると、深夜4時を回ろうとしていた。石田なのか。だとしたらこんなメッセージも、インターホンを鳴らさないのもおかしいが、こんな時間に配達もあり得ない。いつも人の訪問には大抵居留守を使う僕は、そのまま息を潜めながら静かに部屋の電気を消し、玄関扉の向こうにいるであろう人物が立ち去るまで数分待った。
 パソコンモニターの画面だけがぽつり、光を放っている。
 静かに立ち上がり、部屋から廊下に向かう。臆病に足音を殺しながら玄関に近づいた。
 扉の覗き穴から人がいないことを確認しながら、静かに郵便物受けを開けた。しかしそこは空っぽだった。確かにこのポストが開閉する音に聞こえた。いつもなら何かが入っているはずなのに、と考えながら横目で、閉めたはずの鍵が開いていることに気付いた。
 その瞬間、部屋の奥でどどどどどどどどどどど、と騒がしく足音がした。明らかに複数人が出す異様な音の大きさと数だったが、背中越しにその音がいきなり近づいてきたのが分かった。
 振り返った拍子に足を滑らせうつ伏せに転んで頭を打ってしまった。なんとか起き上がらないとと焦り、頭を上げると同時に、低く無機質な声で「ばあ」と真っ黒い顔のようなものが視界の上から逆さに出てきた。
 反射的に身体を硬く縮こまらせ、頭を抱え目を塞いだ。全身に力が籠る。
 そのまましばらく時間が過ぎた。実際には数分のはずだが、体感時間はその比ではなかった。気が付くと騒がしい足音も嘘のように静かになっていた。玄関の前で、うずくまる自分だけがいた。ふと、視線を感じる気がする。
 朦朧とした頭で、真っ暗な廊下をなけなしの力で立ち上がり、モニターの光を頼りによろよろと部屋に戻る。
 デスクトップが開かれているはずの画面に、コンテストの投稿サイトが開かれ、書きかけの小説の続きに、リアルタイムに文章が更新されている。
 ふとキーボードに視線を落とすと、自分の手が勝手に動いている。自分の意思に反して、キーボードで文字を打ち込んでいる。この小説を、今、書いている。書いていますが、読めていますか。この文章を、今、リアルタイムに。このもじたちを。よんでくださり。ありがとうございます。僕はぜんしんの感覚がありません!みたいな。笑。うれしいうれしい!!!もう彁のものですが
体をうごかすのは楽しいですね
もじをうつのもたのしい
読めていますか???? ??あなた
よければおうちにも来てくださいぜひ
こんなお誘いができてうれしい
モキュメンタリーホラー小説のコンテストを開催していただけたおかげです。笑?? ありがとうございます。彁の祝ふくを、全国の皆様にお届けできてうれしいです。指折り待ち侘びて居ました。こうしてあなたの目にふれられて たすこんな機会めったにありませんのでけて ええええええええええええええええ
ええええあえなたと5体目んできて嬉しいです
見てくださってありがとうございますあなたの目
それではそち いきますのでよねしくおねがいします