私の村の話を聞いてください。
 私の住んでいた●●●●村(今はもう町ですが)には、●山という山があり、まさらさまという怖い神様が住んでいました。神様を鎮めるため年に一度、若い女が生贄に捧げられ、白装束で生きたまま山の真ん中に埋められました。
 ずっと昔からの風習で、近代もその習慣は続いていました。ところが大きな戦争が起き、何年も外国と戦い続けているうちに風習は廃れ、忘れられていきました。ですが神様や捧げられた娘たちは、世間への怨嗟を忘れませんでした。
 やがて彼女たちの恨み、淋しさ、哀しみ、恐れなどの感情は混じり合い、一つの怪異が生まれました。それが白い女です。白い女は気まぐれに現れては子供をさらったり、人を狂わせたり、不幸にしたりします。理由はありません。それが存在する意味であり、存在することそのものなのです。
 淋しくてあるいは気に入って連れていく、という説もありますが、アレにそんな感情は無いのです。ただ人々の恐怖により実存させられ、成長していく。そういう存在なのです。

 だから私の地方では、白い女に遭ってもその話を他人にしたりはしません。話せば、ますます白い女の力が強くなっていくからです。
 白い女は恐怖の、もっといえば皆さんの頭の中に住むのです。住み続けられるように人間に恐怖を与え、記憶に刻まれ続けようとするのです。より長く、より多くの人間に……。
 だから間違っても、白い女の話を本にまとめたりしないでください。アレは今や、日本のどこにでも現れます。この手紙を読んだあなたのもとにも、きっと来ます。

 誰もいない部屋から物音がしたり、誰かが窓や戸を叩いたら注意してください。決して開けてはいけません。見てはいけません。話してはいけません。聞いてはいけません。

 だって白い女はいるのですから。