六月●日、●●県●市のキャンプ場で、●市在住の中学校一年生のＢさんが消息を絶った。
　Ｂさんは私立●●中学校が催す学年別のキャンプに参加しており、キャンプファイヤーの後で班ごとにテントで就寝、翌朝起きた時には姿を消していたという。
　テントの周囲は森で、Ｂさんは夜の間に森に入ったとみられ捜索が行われたが、現在も見つかっていない。同級生によるとＢさんは明るい性格だったというが、最近は落ち込んでいるようだったという。「何かに怯えている様子だった」という証言もあり、警察は学校関係者や家族に詳しい話を聞いている。
　なお、キャンプ場の職員の話では、森の入り口は明るく道も整備されているが、立ち入り禁止のロープを越えて奥に入ってしまうと、深く迷いやすいという。
　自衛隊や捜索ボランティアも加わり、現在も捜索活動が続いている。

　写真も無い、小さな扱いの記事だった。上に載っていた「某政治家の汚職事件」のほうがよほど大きく扱われている。その後も数日は捜索の進捗が載っていたが、五日もするとＢ君の失踪に関する記事は見られなくなった。
　とはいえ、やはりＡ君の話は本当だった。

　とんでもない怪談を引き当ててしまったかもしれない。

　背中が震えた。怪奇作家としては幸運なのだろう。Ａ君の話を小説として書き上げれば、かなり面白い怪談が書けそうだ。上手くやれば、作家として大きな一歩を踏み出せるかもしれない。
　一方で恐ろしくもあった。Ａ君の話が本当だとすれば、とても筆者の手には負えない。なぜなら白い女の怪異は、伝染するかもしれないからだ。

　ふと、視線を感じた。誰かがこちらを見ている気がする。
　筆者は顔をあげた。いつのまにか日が暮れ、窓の外が真っ赤に染まり始めていた。慌てて時計を確認する。バスの時間が迫っていた。