先に相談と書いたが、R子のメールは以上だった。
助けて欲しいと言うわりには既にHは死んでおり、R子自身が怪異に困っていると窺えるのは「時々誰かが窓を叩きます」の一文のみで、具体的に何をどうして欲しいのかが無い。オカルトが苦手だという彼女が、どこで私のようなマイナーな自称ホラー作家を知ったのかも分からない。
まるで罠みたいだ。
そう思いながらも私は、R子に詳しい話が聞けないかと打診した。返事はノーだった。が、Hの残した本を送ってくれるという。また、名前を伏せてならメールの内容を公開しても構わないと了承してくれた。

 本が届くまでの間、私はインターネットで例の事故の動画が上がっていないか調べた。死亡事故を謳った動画も、昨今では割と普通に出回っている。事故があったと思われる日付や、ここ数か月以内に新しいカフェができた地域から検討をつけて、動画を検索した。
 だが、Hの事故らしき動画は見当たらなかった。R子の話では多くの野次馬が動画を撮っていたというくらいだから、一本くらいあってもよさそうなのに妙だ。
 あまりにショッキングな内容で、動画サイトの運営側が削除したのかもしれない。だがこうもヒットしないと、意図的に削除されているのではと疑いたくなった。
例えば何か映ってはいけないモノが映っていたとか……。

 数日後、R子から本が届いた。匿名配送だったため、R子の住所を特定することはできなかった。高校生のR子が匿名配送なんて思いつくだろうかと疑問を抱きつつも、私は荷物を受け取り、本を開いた。
一章を読み終えた感想はR子と同じだ。気味の悪い本の一言につきる。

しとしと、しとしと。

 いつのまにか雨が降っていて、静かにアスファルトを濡らしている。窓をぽつぽつと叩く雫が別の雫と一つになり、ガラスを斜めに走っていく。そこにふと、白い女の顔が映りそうな気がして、私は慌ててカーテンを閉めた。

 何がそんなに薄気味悪いのだろう。

 内容としては、よくあるフェイクドキュメンタリーだ。家鳴りが気になったり、白い女を見た気がしたりするのも、語り口による一種の催眠みたいなものだろう。

 でも、もし本当に本のせいでHが死んだのだとしたら……。

 私はNの本を最後まで読む前に、Hの死の真相が知りたくなった。知ればNの話がよくできた作り物か、それとも本物なのかを確かめられる。

 となればまずは、R子やNがどこに住んでいるのか調べる必要がある。R子の話で手掛かりになりそうなのは、
「吹奏楽部が全国大会出場レベルの高校」
「今年の四月以降に若い子が好みそうなコンセプトカフェができた町」
「そこそこ都会」
「七月に交通事故で女子高校生が死亡」
 この四つだ。また、メールで頼んでから荷物が届くまでの日数から、沖縄や北海道など、極端に南北にある町は除外できる。

 そうして割り出された候補は●●県●●●市、●●県●●市、●●県●市の三つだった。そこからさらに調べて、私はHの高校を特定し、同級生に話を聞くことができた。