5秒を切った残り時間を表す数字が、視界の端に映る中、僕はすぐさまシュートモーションに入る!

 4試合を戦い抜いて疲れきった身体に、最後のムチを入れる。
 かがめた膝を伸ばし、テイクオフ。
 地面を蹴る力をしっかりとボールに伝え、身体の中央線の延長線上にボールがあることを意識しながら、左手は添えるだけ。

 そうして相手のブロックよりも一瞬、先に放たれたボールはゆったりとした弧を描きながらゴールに向かい──、

(ああ、これはダメだ。今まで何度も見てきた軌道だ。これだとリングの手前に当たって跳ね返ってしまう)

 散々シュートを失敗してきた経験が、僕に最悪の未来を告げてくる。
 このシュートは外れる、と。

 ガコン!

 予想した通り、ボールは鈍い音を立ててリングに当たって、跳ね返る――跳ね返った時にはもう、僕は落下予想点に向かって走り、全力ジャンプで飛び上がっていた!

 ほんの数秒だけど、まだ時間は残ってる!

 だったら諦めてたまるかよ!
 指をくわえて見上げたままでいられるかよ!

 諦めたらそこで試合終了だって、有名なバスケ漫画でも言ってただろうが!

 ボールが僕を目掛けて跳ね返ってくる。

 ビンゴ!
 思った通りだ!

「リバウンド!」
「マイボール!」
「抑えろ!」

 敵味方の大きな声が入り混じる中、僕を目掛けてディフェンスが殺到する。

「うおぉぉぉぉぉっっ──!」

 しかしディフェンスが寄ってくる前に、ジャンプの最高点で、僕は両手でガッチリとボールを確保する!

 極限まで集中していたからか、思考が加速し、相対的に世界がスローモーションに感じる。
 停滞する時の中で、落下を始めながら、僕はさらに思考を加速してゆく。

 リバウンドは上手く取れた。
 でも着地して、改めてシュートを打ち直すのは無理だ。

 すぐにディフェンスに囲まれて、シュートを打たせてはもらえないだろう。

 打ち直すには、残り時間もかなり厳しい。
 運よくディフェンスをかわせても、シュートを打ち直す時間は恐らくない。

 だったら!
 このまま空中でシュートすればいいだけのこと!

 リバウンドを取ったと同時に、ほとんど一瞬でそう判断した僕は、落下しながらシュートモーションに入る。

 今度こそ正真正銘、最後のシュートだ。
 
 もう一度、右手をボールの中心に置いて、左手をそっと添える。
 身体の中心線の延長線上にボールを打ち出していく。

 だけど空中にいることに加えて、ここまで4試合を戦ってきたことから来る疲労が、僕の身体を(なまり)のように重くしていた。

 くっ、上手く身体が動いてくれない!
 ボールが重い。
 上手くボールを押し出せない。
 シュートフォームが乱れる!

 だめだ、とても打ち切れない。

 せっかくみんなが繋いでくれたボールなのに――!
 これを決めれば逆転なのに――!


「アキトくん、いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 その時、ひまりちゃんの声が聞こえた。
 体育館中に大きく響いたその声は、たったそれだけで僕の身体の中で強烈な化学反応を巻き起こした。

 ありていに言うと、力がみなぎってきた――!

「おおおおおおおおおっっっっっっっっ――――――!!」

 さっきまでの鈍重な動きが嘘のように滑らかに動き始めた右手が、まっすぐにボールを押し出していく。

 ボールが手から、指から、指先から順を追って離れていく。
 指先の先の先の先のところで、ほんのわずか擦るように押し出す感覚があって――。

 自分じゃ見えないけど、過去一で綺麗なシュートフォームだったと思う。
 その確信が僕の中にあった。

 体育館の床に足が触れる。
 着地しながらも、僕の視線はずっとボールを追い続けていた。

 入れ、入れ、入れ、入れ、入れ入れ入れ入れ入れ、

「入れーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 僕の見上げる先で――ううん、おそらく体育館中の視線のその先で、スポンと軽やかな音を立てながら、ボールはバスケットを潜り抜けた。

 同時に試合終了を告げるブザーが鳴る。
 試合をひっくり返す大逆転シュートが――決まった!