そして運命の――ってほどでもないんだけど、最終戦となる5組との試合が始まった。

 運動部が2人いる5組は、うちのクラスよりまぁまぁ強い。

 だけど僕らは女神に捧げる1勝を目指して、一丸となって5組に立ち向かった。

 なにより現時点では3戦全敗で最下位だけど、この試合に勝てばなんと3位タイで終えることができるのだ。

 現在の順位は上から、

・2組:4勝0敗
・3組:3勝1敗
・4組:1勝3敗

 と、この3クラスは4試合を全て終えていて、ここから勝ち負けの数は変動しない。

 よって最終戦の、

・5組:1勝2敗
・1組:0勝3敗(僕たち)

 の試合で、僕たち1組が勝てば、1組・4組・5組の3クラスが、仲良く1勝3敗で並ぶというわけなのだ。

 みんなもそれが分かっているから、だから僕たちは勝利を目指して懸命にボールを運ぶ。

 取って取られて、取られて取って。
 試合は序盤から激しい打ち合いの様相を見せていた。

 まずは前半戦を3点ビハインドで終え、ハーフタイムを挟んで後半戦へと入る。

 ボールが僕に回ってくる。
 するとディフェンスが2枚、スススと寄ってきた。

 これは──ダブルマークだ!

 この試合も結構、点を決めていたからか、どうやら僕はかなり警戒されているようだ。

 そして僕の素人バスケテクでは、とても2人をかわしてシュートを打つことはできない。

 しかし僕には愛すべきバスケ馬鹿こと高瀬の教えがあった。

『ダブルマークは特に素人同士だと強力だけど、その分、味方が1人フリーになるから、寄られる前にさっさとそいつにパスを出してしまえば、こっちのもんさ』

『言うのは簡単だけどさぁ……』

『簡単だぞ。2-1=1。つまり必ず1人余る。小学生でも解ける簡単な算数だ』

『た、たしかに? そんなに自信満々に言われると、できる気がしてきたような? いや、どうだろう?? 騙されているような……』

『神崎兄は、何でもいちいち難しく考えすぎなんだよ。こう、ガーっと行って、ダーッとやっちまえば、案外うまくいくもんだぜ! だはは!』

 ――以上、回想終わり。

 僕は高瀬の教えに従い、近寄ってきた2人の間の足元を抜くようにして、囲まれてしまう前にワンバウンドでパスを出す。
 パスは思いの外、綺麗に通り、フリーでパスを受けたバイト戦士の松山が、丁寧なレイアップシュートでネットを揺らした。

「神崎兄、ナイスパス!」
「松山もナイシュー!」

「これで1点差! 次で逆転だ!」
「だね!」

 僕たちは全力でボールを繋ぎ、ひたすらにゴールを目指し続けた。

 そうして試合は一進一退のまま進んでいき、ついに残り時間が20秒を切った。
 残念ながら、まだ1点差で僕たちが追う展開だ。

 しかもボールは相手ボール。
 残り時間を浪費するために、相手はゆっくりと時間を使いながら攻めてくる――フリをして攻めてこない。

 僕たちは少しでも早くボールを奪って、オフェンスに入りたい状況だけど、それで点を取られてしまっては元も子もない。

 ジリジリと時間だけが過ぎていく中で、最近ネット小説でなんかの賞を取ったらしいメガネ君こと日向が、勝負に出た。
 今日は一日運動するからか、珍しくコンタクトを付けてきた日向は、

「うぉりゃー!」

 飛び付くように右手を伸ばして、おそらく一点読みで、時間稼ぎの横パスをカットする!

 もし今のがパスフェイントだったら大ピンチだったが、日向は見事にギャンブルに勝ってみせた!

 日向の手に当たって乱れたボールは、バウンバウンと跳ねながらコート外に出そうになったが──今度は数学研究会の石崎がジャンプ一番!

「だあああああっ!」

 空中でコート外に出ながら、しかし足をギュッと身体に引き付けて、足が床に着く前にボールに手を掛け、そのままコートの中へと投げ込んだ!

 ドデン、と痛そうな音とともに背中から床に落ちた石崎。
 怪我をしてなければいいんだけど、それよりも今はボールだ!

 投げるのが先か、床に落ちるのが先かで、若干タイミングが怪しかったが、レフリーはインプレーを指し示す。
 ボールはまだ生きている!

 石崎の決死のダイブで、コート内に返ってきたボールを、今度は将棋部の三杉が160センチに満たない小さな身体をいっぱいに使って、相手と競り合いながら懸命に確保する。

 ボールを持った三杉はすぐさま、背の低さを存分に生かした低く小刻みなドリブルで、香車のようにサイドライン際をスススっと前に進んでから、冷静沈着に神の一手のごとき狙いすましたノールックパスを出した。

「ほい、そこ空いたっと。ま、俺にとっては簡単な詰将棋だね」

 フリースローライン辺りの空きスペースに走り込んでいた僕の手元に、みんなが気合いで繋いでくれたボールがドンピシャで回ってくる!

 この位置はひまりちゃんとの秘密特訓で、散々練習した位置だ。
 慌ててディフェンスがブロックに寄って来るけど、もう僕がシュートを打つ方が早い――!
 
 さあ、行くぞ。
 これが勝負を決める最後の一投だ――!