ひまりちゃんに手を引かれながら店内に入ると、さらにたくさんのきらびやかなランジェリーの数々が、僕たちの前に姿を現した。

「わっ、これ新作だって。やだ、可愛い~! ねぇねぇ、アキトくんはどう思う?」

 入って早々、ひまりちゃんは新作コーナーのブラジャーが気になったようで、僕の手をポイっと離すと、自分の胸の前にライトグリーンのブラジャーを掲げながら感想を聞いてきた。

「ああ、うん。いいんじゃないか?」

「ちょっとアキトくん、適当に言ってない? ブラ一枚でその日の気分とかも変わってくるんだから、ちゃんと見て感想を言ってよねー」

 気恥ずかしさから軽く流してしまった僕を、ひまりちゃんがハムスターのようにほっぺをぷっくり含まらせながら問い詰めてくる。

「だって恥ずかしいだろ? というか僕を恥ずかしがらせるために、聞いてないか?」
「えへへー?」

 図星だったのだろう。
 女神のような素敵な笑顔で、笑って誤魔化すひまりちゃん。

「まぁでも、ひまりちゃんの言うことは、もっともだよね。ごめん。ちゃんと見て、感想を言うよ」

 ひまりちゃんがすごく気に入った物に対して、よく見ることもなく適当な言葉を返したのは、明らかに僕の落ち度だった。
 要反省だ。

 だから僕は名誉を挽回するために、ひまりちゃんが胸の前に掲げたブラジャーに視線を向けて、しっかりと見定めることにする。

「どう? ね? 可愛いでしょ?」

「花がいっぱい付いていて、そうだね。結婚式のブーケみたいだ。ガーリーな中にど大人っぽさも入ってて、すごく可愛いと思うよ。最近大人っぽくなってきたひまりちゃんにとっても似合うと思う」

「うんうん、そうなの! 結婚式を想像して、もう見ただけでテンションが上がっちゃったんだよね~!」

 僕の見立ては、どうやら正解だったようだ。
 僕はふぅ、と軽く息を吐くと、ブラジャーから視線を外した。

 すごく疲れた、精神的に。

 しかし視線を外した先で、レジにいる女性店員さんが、とても微笑ましそうに僕らのやり取りを眺めていたので、僕は気恥ずかしさから、再びひまりちゃんへと視線を戻した。

「で、それは買うの? かなり気に入ってるみたいだけど」

「ブラはこの前、新しいサイズのを買っちゃったし、今日はスポブラを買いに来たからパスかなー。今度来てまだあったら、ついつい買っちゃうかもだけど」

「父さんから今日のためにまぁまぁのお金をもらってるから、追加で1つ買うくらいなら問題ないぞ?」

「ううん、大丈夫。今日はいいよ」
「そっか」

 ひまりちゃんは昔のこともあって、とても堅実かつ倹約家なのだ。
(あくまで常識の範囲内でね)

「じゃあ行こっか」
 ひまりちゃんがブラジャーを元通りに戻すと、再び僕の手を取って歩き出した。

 しかし今度は妙にアダルティな下着たちが、目につき始める。

「この辺りはなんだか方向性が違わないか? 今日はスポブラを買いに来たんだよね?」

 スケスケレースだったり、布面積が妙に狭かったり、両サイドを紐で結ぶタイプだったり。
 お年頃な男子高校生には、なんとも刺激が強すぎる。

「こ、この奥に学生向けのコーナーがあるの!」

 ひまりちゃんの声のトーンがいつもより高く、早口だった。
 どやらひまりちゃんも、僕と同じく緊張しているようだ。

「そ、そうか」

 だから僕も短く答えて、口を閉ざすと、僕たちは2人して黙ったまま、アダルティなランジェリーのエリアをそそくさと通り過ぎた。
 
 こうして僕たちは、目的地である学生向けの下着売り場へとたどり着いた。