僕は自分の分とひまりちゃんの分のメロンソーダを両手でそれぞれ持って、同じくメロンソーダを持った雪希と、ひまりちゃんの待つ部屋へと帰還する。

 戻ってくると、トップバッターで曲を入れていたひまりちゃんがちょうど歌い始めるところだった。

 制服を可愛く着崩して歌いやすくしつつ、堂々たるスタンディングスタイルで歌うひまりちゃんを横目にソファに座ると、雪希はやっぱり肩をくっつけるようにしてすぐ隣に座った。

「入れたてのモーニングコーヒー~♪ アキトくんと一緒にワンナイ~♪」
 そしてひまりちゃんはというと、初っ端から歌詞を改変して好き放題に歌っていた。

「こらこらひまりちゃん、勝手に歌詞を捏造するんじゃありません」

 よりにもよって、一夜を共にした男女が朝、入れたてのモーニングコーヒーを飲むって歌詞を、兄妹に変えてしまうのはまずいだろう。

 一夜を共にするってのは、昨日の夜にやったみたいにただ一緒に寝るって意味じゃないんだからな?

「えへへ~♪」
 もちろんひまりちゃんは反省の色はまったくなし。
 むしろドヤ顔で親指をグッと立ててくる始末である。

 めちゃくちゃ可愛くて、僕は一瞬、息をのんで見とれてしまった。

 のっけからノリノリでカラオケを楽しむひまりちゃんと、おそらくは僕とのやりとりを見て、

「ふふふふっ」
 雪希はもう笑いを堪えられないようだった。

 ちなみにひまりちゃんは歌もかなり上手い。
 ひまりちゃんは可愛いし、歌ってみた動画でも上げたらバズったりするんじゃないかな?
(ただし歌詞は改変せずに←重要)

 そんな歌うまフリーダムソンガーひまりちゃんに続いて、2番手で僕が歌う。

 同世代なら誰でも知っているような流行りの曲を、音程だけは外さずに平凡に歌っただけだったけど、

 シャンシャン♪ シャンシャン♪
「いぇい!」

 ひまりちゃんが無料貸し出しのタンバリンを振り振りしながら合いの手を入れてくれたり、サビで絶妙なハモリを入れてくれたりと、それはもう盛大に盛り上げてくれたので、まるで歌うまさんになった気分だった。

 でも、スマホで撮影だけはやめて欲しい。
 そんなに上手じゃないので、正直恥ずかしかった。

 ま、ひまりちゃんに言っても絶対に聞いてくれないので、イチイチ言わないけれども。

 絶対に譲れないこと以外は、人間諦めが肝心だ。

 そして最後に雪希が3番手で歌い始めた。

「~~~~♪」

 雪希はゆったりとしたバラードを、しっとり丁寧に歌い上げていく。
 なにより印象的だったのは、その声の美しさだった。

 少し甘ったるい感じの可愛い声を出すひまりちゃんと違って、雪希は冬の夜空のように透きとおった、澄んだ声をしていた。

「すごーい、雪希ちゃん上手~!」
「綺麗な声だったから、思わず聞き入っちゃったよ」

「そ、そんな。大げさですよ」
 雪希が胸の前で手を左右に振って否定する。

「大げさじゃないしー! 普段から綺麗な声だなーって思ってたけど、歌うとヤバいかも! ねー、アキトくん?」

「ひまりちゃんの言う通りだよ。雪希が歌い始めてすぐに、思わず引き込まれたもの」

 間奏の間に、ひまりちゃんと僕は雪希を褒め倒した。
 ひまりちゃんも上手だけど、雪希も負けてはいなかった。

 ひまりちゃんの歌はほわほわ幸せな気分にさせてくれるけど、雪希の歌は人を引き付ける力があった。
 これまた歌ってみた動画をアップしたらバズること間違いなしだろう。

「あ、ありがとうございます」

 しかし雪希はというと褒められ慣れていないのか、恥ずかしそうに視線を逸らすと、ちょうど始まった2番をいそいそと歌い始めた。

 またまた雪希の歌に引き込まれてしまう僕とひまりちゃん。
 ひまりちゃんの撮影してる動画に雪希の歌も残っているだろうから、後で聞かせてもらおう。

 とまあそんな感じで、ひまりちゃんと雪希と3人で行ったカラオケは、盛り上がりに盛り上がったのだった。