「終わらせてやる。全てを」

 魔王の策略から守るため、(ごう)を背負ってでも王都中の民から魔力を奪い取ったヴァルツ。
 その力は、かつてないほど強大となっていた。

 それでも、魔王はまだ余裕を持ったまま。

≪その程度でほざくとは≫
「……!」

 次の瞬間、魔王が抑えていた魔力を解放する。
 
「……ッ!」(これは……!)

 それだけで吹き飛んでしまいそうになる。
 ヴァルツは腕を前に構えてなんとか防ぐ。

≪そんなものなくとも、我は魔王≫
「ハッ、そうかよ」

 目の前の魔王の姿に、思わずヴァルツは(かた)()を飲む。
 
 先程までのプレッシャーなど、まるで話にならない。
 これが真の姿と言わんばかりの存在感がそこにあった。

「チッ」

 (ひたい)に冷や汗を感じるヴァルツ。
 その原因は主に二つ。

 一つは魔法空間【二律背反(アンチェイン)】への耐性を持っていたこと。
 だが、これはまだ想定内。
 伝説の魔王をあれだけで倒せるとは思っていない。

 本当に問題なのは、次。

「……面白え」

 魔王の魔力総量が、予想より遥かに膨大(ぼうだい)だったこと。
 魔力を解放する前の状態ですら、ヴァルツとは比べものにならなかった。 

 文字通り、規格外だ。

 だが、ヴァルツには使命がある。
 みんなを巻き込んででもヒーローの役目を果たすという使命が。

「整ったみてえだな」
≪そうであるな≫

 それが開戦の合図。

「──!」

 ヴァルツはその場を()り出す。

 体の大きさが違う分、リーチは魔王が有利。
 ならばと(ふところ)に飛び込むことを選択した。

≪【暗黒門】≫
「……!?」

 だが、魔王の前に漆黒の【闇】の門が展開。
 
「チィッ!」

 対してヴァルツは、【光・身体強化】を応用し、宙で方向転換。
 事なきを得る。

≪良き判断だ≫
「黙れ!」

 反応というよりは、反射に近い。
 それほどに危険なものを感じたのだ。

 しかし、当然それだけでは終わらない。

≪【波動】≫
「……ッ!」

 魔王が展開した【暗黒門】から、属性魔法が放出される。

 食らえば一撃。
 特性の【弱体化】で体は一気に崩壊するだろう。

「クソが……!」

 退避を繰り返しながら、ヴァルツは思考を(めぐ)らせる。
 
 どうすればこの魔王を倒せるのか。
 材料は『原作の情報』と、一番始めの『先制攻撃』。

「……」

 先制攻撃では、確かに胸を(つらぬ)いたはず。 
 だが、毛ほどのダメージも入らず、あっさり返された。

 あの時の感触はほぼ無いに等しかった(・・・・・・・・・・)
 刺したというより、ただ空を切った感覚。
 
「……」(ということは……)

 原因はおそらく、魔王が魔力の塊で構成されているからだ。
 “物理攻撃はほぼ効かない” と考えて良いだろう。

「……ハッ」(ならば!)

 やはり魔力には魔力。
 魔法で存在ごと消し飛ばすしかない。
 そう結論付ける。

 ──だが。

≪我が怖いか≫
「何の話だ……!」

 攻防を繰り広げる度、強く実感する。

 この強大な魔力の塊をどうするのかと。
 王都民全ての魔力を奪った今でも、ようやく同等。
 むしろまだ劣るぐらいの魔力量だ。

≪我にはそう見えるが≫
「よっぽど目が腐ってるらしいなあ!」

 案はいくつかある。
 これまで、こと魔力に関しては技を開発してきたからだ。

≪がっかりさせるな。我が子孫よ≫
「てめえはさっさと眠りやがれ。クソじじい」

 しかし、近づけない。
 魔法を込める時間も稼げない。
 退避に全力を注がなければ一瞬で消し炭になるからだ。

 どの戦略を試そうにも、とにかく()が足りなかった。
 
 ──そんな時。

「……!」(これは……!)

 ヴァルツの中に響くは、『共鳴』。
 ただし今回は【闇】ではなく──【光】。

「ったく」

 そんな言葉をこぼしながらも、ヴァルツはニヤリとした。
 何が起きたかを確信したのだ。

 ヴァルツの周りにはいる。
 こんな状況下でも付いて来る、まるで主人公のような人物が。 

「邪魔だっつってんだろ」
「うおおおおおおおお!」

 ガキィンと甲高い音が辺りに(ひび)き渡る。
 魔王の展開した【暗黒門】を破壊したのだ。

 【二律背反(アンチェイン)】という魔法空間下において、動ける人物をヴァルツは一人しか知らない。

「ヴァルツ君!」
「フン」

 駆けつけたのは、唯一無二の力を持つ男。
 【太陽】のような少年だ。

「二人で倒そう……!」
「ハッ、いらねえよ……!」

 もう一手が欲しい。
 そんな場面に、ルシアが駆けつけた──。