「今、何が起きたんだ?」

 仕様変更したお掃除ロボットの性能を試してみようと丸めた紙を投げてもらったところ、掃除ロボットの両端から鉄筒がでてきて撃ち落とした。

 自動迎撃ミサイルみたいな動きを前に、俺もアリスも固まってしまっていた。

「だ、旦那様。とりあえず、降りましょう。危険かもしれませんから」

「いや、ちょっと待ってアリス。下手に動かない方がいいかも」

 俺は心配そうに瞳を潤ませて近づいてきたアリスを手で制する。

 さっきの丸めた紙みたいにアリスのことも攻撃されたらたまった物じゃないからな。

 俺はそう考えながら、俺の足元にいるお掃除ロボットをちらっと見る。

「えっと、さっきの丸めた紙に何をしたのか教えてもらってもいいかな?」

 俺がそう言うと、パッとウインドウが現れる。

『搭乗者がゴミだと認定したので、「自動清掃」モードで排除いたしました』
『「自動清掃」は搭乗者に近づくモノを自動で排除するモードです』

「な、なるほど。『自動清掃』ってそういう機能だったのか」

どうやら、『自動清掃』というのは普通の意味の清掃ではなく、排除するという意味の清掃だったらしい。

 剣も魔法もいまいちパッとしない俺にとって、このお掃除ロボットは自分の身を守る手段になるだろう。

 俺はふむと考えてから、ハラハラしている様子でずっと俺のことを見ているアリスをちらっと見る。

「ちなみに、近づいてきた人を撃ったりはしないよね?」

『搭乗者が排除対象と認定した場合と、危険を察知した場合を除いて不要に排除するようなことはありません』

 俺は追加で書かれたウインドウを見て頷いてから、アリスの方に視線を向ける。

「アリス。近づいてきても大丈夫みたい――ぶっ!」

「旦那様ぁ!!」

 アリスは俺が言葉を言い終えるよりも早く、俺に強く抱きついてきた。

 俺のことを心配してくれているのは嬉しいが、体がペッハー君だった時と比べて色々と違うのだからそこら辺は考え直していただきたくもある。

 いや、別に嫌なわけではないけど、照れ臭いからね。

「ア、アリス。少し苦しいって」

「も、申し訳ございません!」

 俺がアリスの肩をタップすると、アリスは俺の背中に回していた手を緩めてくれた。

 アリスはよほど俺のことが心配だったのか、瞳に涙を溜めているようだった。

 しかし、背中に回された腕が緩められてお掃除ロボットから下りようとしたとき、何か熱い視線を感じた気がした。そして、再び背中に回された手が強くなった気がした。

「旦那様……」

「ん? アリス?」

「い、いえ! 何でもありません」

 俺がパッと視線をアリスに戻すと、アリスはハッと何かに気づいたように首を横にブンブンと振っていた。

そして、その動きに合わせるようにツインテールが横に揺れている。

 なにが何でもないのだろう?

「私は何を考えて……う~~っ」

 アリスは顔を赤くして何やら独り言を言いながら悶えていた。

俺が気になってアリスを見つめてみたが、アリスは両手で赤くなった顔を押さえて眉を下げているだけだった。

 まぁ、俺が考えても分からないか。

なんかドジっ子メイドみたいで可愛いから、そのままにしておこう。

 そんな事を考えながら、俺はお掃除ロボット地面に下ろしてから一旦降りた。

 それから、俺はお掃除ロボットを見ながらふむと考える。

「アリス。『死地』を拠点にしている魔物はいなくても、魔物が『死地』を通ることくらいはあるんだろ?」

「あっ、はい。まったくゼロということはないと思いますよ」

「まぁ、そうだよな」

 今まではここでずっと暮らしていけると思っていたが、それはあくまで魔物たちから襲撃されなかった場合だ。

 この世界には異世界ファンタジー物の定番である魔物たちがいる。

 草木も育たないようなこの地を縄張りとする魔物はいないが、絶対に魔物に襲われないという保証はない。

 お掃除ロボットのように、何かしら自衛できる手段があった方がいいだろう。

 特に、俺の場合は剣も魔法も得意という訳ではないしな。

「ちなみに、アリスって魔物とかと戦えたりしないよね?」

「もちろん、旦那様を守るためならどんな相手でも戦いますよ!」

 アリスはそう言うと、どこから出したのかデッキブラシを片手にふんすっと鼻息を漏らす。

 うん。気持ちは嬉しいけど、アリスを守るためにも俺が何とかしないとな。

 さすがにあの細い手足では何もできないような気がする。

「やっぱり、仕様変更で武器を手に入れていくしかないよな。でも、そんな都合よく武器になりそうなものが家電量販店にある気がしないし」

 俺はそう言いながら、フロアマップに近づいて腕を組んで考える。

「ん?」

 すると、別のフロアに『おもちゃ』と書かれている場所があった。

 俺は『おもちゃ』と書かれた文字をじっと見てから、あっと小さく声を漏らす。

「もしかして、あれがあるかな?」

 家電量販店にある武器と言えば、やっぱりあれだよな。

 普通なら武器にはならないが、仕様変更ができるのなら十分武器になる素質がある。というか、武器を模した玩具だしな、あれは。

 俺はそう考えて静かに口元を緩めるのだった。