「悪い、ちょっと話が長引きそうなんだ。先に帰ってもらっていい?」
「うん、いいよ」
 そもそも退魔協会からならばひとりでも帰ることができる。駅まではシャトルバスがあるし、彼女の住む町は治安がいい。
「今度、新鮮堂のフルーツタルトおごるから」
「やった!」
 ネットで話題のフルーツショップの限定タルトだ。食べたいなあ、と呟いたのを彼は覚えていてくれたのだ。
「じゃあ、気を付けて帰れよ。家に着いたら連絡して」
「わかった。じゃあね」
 手を振って別れ、結珠は出口に向かう。
 退魔協会のそのフロアはどことなく市役所に似ていた。
 カウンターで仕切られ、来客の対応をする職員。カウンターの奥には事務処理をする人たち。
 来客は主に退魔師と、退魔を依頼する人。
「退魔依頼は一番のカウンターです。次の方……退魔師免許の更新ですね、五番へお進みください」
 受付の美人がにこにこと客をさばいていく。
 私もあれくらい美人だったらな、と結珠はため息をついた。
 そうしたら自信を持って龍真の隣にいられるだろうか。
 イケメンの龍真はどこへ行っても女性にモテモテで、彼に片想いをしている結珠はいつも気が気ではない。
 せめて退魔だけでもしっかりしたいと思うのに、それもできない。
 今日だって一発で仕留めることができなかった。
 スマホのお札は自身の力を乗せて射出するので、自分の力が足りなければ封印はできない。