翌日の休み、私は歩美と家に居た。

 真鈴が可笑しくなった原因を突き止め、真鈴を助けるためだ。

「付き合ってくれてありがとう、歩美」

「いいのいいの。もともと、涼花は関係ないのに巻き込まれたんだし。でも、これって本当に紗千の呪いなのかな?」

「違う気がする。野呂さんの手紙に書いてあったあの言葉『○×△■■〇×』が何かある気がする」
「あれ、どういう意味だろうね?」

「さっぱり分からない。でも、あれが呪いの言葉なのかもしれない。私が怪現象に襲われるようになったの、手紙を読んでからだから」

「涼花の言う通りかもしれないね」

「あの言葉が何か分かれば、解決策が見つかるかもしれない。でも、どうやって調べたらいいんだろう。ネットであの言葉を検索してみたけど、何も出てこなくて」

「それなら、あたしがよく見てるサイトを使ってみようよ」

 歩美の提案で、私たちはとあるオカルトサイトの掲示板を使うことにした。

 その掲示板はオカルト好きの人の間では高名で、特に月刊誌のレムの読者はよく利用しているサイトだと、歩美が言っていた。

かりぃな9月23日10:28
 最近呪いの言葉を知っちゃって(泣)
 「○×△■■〇×」
 だれか、この言葉のイミとか知ってるひと、ヘルプ!

 歩美が慣れた様子でスレッドを立ちあげ、書きこみをする。
じつは歩美も真鈴も隠れオタクで、その繋がりで紗千とずっと仲が良かったそうだ。

 書き込みをして数分後、はじめて新しい書き込みが増えた。


穴の開いた靴下9月23日10:32
 なにそれ、知らねぇ。
 でも助けたる。だから、住所教えてよぉ。イッパツお付き合いして。

ナイトZ9月23日10:38
 その言葉は魔法の合言葉さ。君はイキたくなる(笑)


 どうでもいい書き込みに苛立った。
それからしばらく下ネタ関連とか、まったく関係ない投稿や、こちらの質問とは別の呪いの言葉についての書き込みが続いていた。

 こんな掲示板じゃ情報集めは難しいかとあきらめかけた時、気になる投稿があった。

陰陽師はる9月23日11:44
 その言葉、知ってる。「○×△■■〇×」って、知ると本当に危ないやつだ。
 意味は俺も知らない。
 でも、それを知って呪われて死んだ奴がいる。嘘じゃない。


 心臓がドクドクと音を立てる。私と歩美はスマホの画面に齧りついた。


名無し9月23日11:45
 なになに、久しぶりに本物キター!

レイ能力者まりりん9月23日11:45
 気になる、どんな呪いなの?

陰陽師はる9月23日11:46
 いや、遊びじゃない。これネタじゃなくて、本当だ。死ぬ覚悟がある奴だけにしておけよ。冗談ではすまない。

通りすがりのオカルトライター9月23日11:46
 はるの言う通りだぜ。その言葉は知ったら本当に危ないぜ。

名無し9月23日11:47
○×△■■〇×ってどういう意味?

陰陽師はる9月23日11:48
 最初に言ったけど、俺も意味はわからない。でも、その言葉を知ると死ぬんだ。俺の友達の友達の弟が死んでいるってことは本当だ。

正義の武者9月23日11:49
 いるよなー、こういうヤツ。友達の友達の弟=他人。ぜってー作り話じゃん。
 てゆーか、なんでお前は死んでないの?


 私と歩美は次々と増えていく投稿を、固唾を飲んで見守っていた。
話の確信がでてこないまま、二十分が過ぎた頃、いきなり何件かの投稿が消えた。

 私たちが最初に投下した投稿も消えていた。

「えぇっ、なんでなんで?」
「歩美、消えたのって『○×△■■〇×』って言葉が入った投稿ばかりじゃない?」
「あっ、言われてみればそうかも」

 掲示板に投稿していた見知らぬ人たちの中にもそれに気付いた人がいるらしく、ちょっとした騒ぎになっていた。

名無し9月23日12:18
マジだ。あの言葉書いたら消されたぞ。マジ、マジだって!

レイ能力者まりりん9月23日12:19
 わたしもやってみた、嘘じゃないよ。

東条ラブ9月23日12:19
それ、多分「赤い本」に出てくるよ。

名無し9月23日12:19
赤い本てなに?

東条ラブ9月23日12:20 
呪いの本。

正義の武者9月23日12:21
なにそれ、聞いたことね~し。バッカじゃね~の。

名無し9月23日12:21
面白そう、ワクワク。

小夜9月23日12:22
アタシ知ってる。どっかの投稿サイトにアップされてた京川乱子って人の小説。ダレか調べてみてよ。

名無し9月23日12:30
 お、検索したらでたでた。ゲッ、有料だって。物書き電網っていうサイト。

正義の武者9月23日12:31
それ、ほとんど素人ばっかが投降してるサイトだろ。釣じゃね~か。

名無し9月23日12:31
 無料で読めんがウリなのに、わざわざ金とる素人って、なにサマなの(笑)

小夜9月23日12:32
 面白いらしいよ「赤い本」アタシ読んでみようかな。

正義の武者9月23日12:32
 東条ラブが作者で売込みしてるだけじゃね~の、これ。もしくはかりぃなが作者。

名無し9月23日12:33
金出して呪われたいやつ集合(笑)



 書き込みはそれなりに盛り上がりを見せていたが、小説サイトの有料作品への誘導の投稿だったとみなされ、スレッド自体が削除されてしまって、途中で情報を集めることができなくなってしまった。

だが、あの言葉の出典が物書き電網というサイトの「赤い本」という有料の投稿小説だということがわかった。

「私、その本を読んでみる」
「あたしも読むよ、涼花」
「危険かもしれないのに?」
「それは涼花もでしょ」

「私はすでにもう変なことに巻き込まれているからいいけど、歩美はあの櫛の夢を見た以外は変なことは起きてない。やめておきなよ」

「いいの。放っておいたら真凛がヤバそうだし、そもそも紗千が呪いの言葉を書いた手紙をもらったのは、あたしと真凛だもん」
「ありがとう、歩美」

私たちはさっそく例のサイトにアクセスした。
赤い本というタイトルを検索すると、一件ヒットがあった。
作者は京川乱子。かの有名な作家をもじってるのだろうか、微妙にセンスのない筆名だ。

文字数は約二万字、閲覧人数は三ケタにも満たない。

赤い本の値段は五百円とそれなりに高い。中学三年生の私にとってなかなか手痛い出費だったけど、しょうがない。
いったいどんな本なんだろう。
唾を呑み込み、私は赤い本を開く。