その晩、私は怖くて眠れなかった。
歩美と真鈴がぐっすりと寝ているのを見ながら、ひとり電気を点けっぱなしの部屋で起きていた。
私と真鈴は本当に野呂紗千に呪われたのか。夢に出てきた着物の女はなんなのか。また変な夢を見るのではないか。
考えれば考えるほど恐ろしくて、眠れない。
パチッ、パチッ。
電気が急に明滅する。故障だろうか。
一度電気を消して付け直してみようと、腰を上げた。その瞬間、部屋の中が暗闇に包まれた。
歩美と真鈴はぐっすり寝ている。
怖かったけど、起こして怖い思いをさせるのもかわいそうだ。
私は頭から布団を被って、寝ようとした。
ミシ、ミシ、ミシ。
今度は何者かが階段を上がってくる音が聞こえてきた。
怖い、何が来たのだろう。ああ、怖くて眠れない。
ミシ、ミシッ。
床を踏みしめる音が部屋の前でとまった。部屋の前に誰かがいる気がする。
私は布団の中で息を詰め、じっと気配が去るのを待った。
ギギ、ギギィ。
不気味な音を響かせて、部屋の扉が開いた。
トン、トン、トン。足音が近づいてくる。
「うっ……」
体に重みを感じた。誰かが私の上に乗っかっている。
悲鳴を上げそうになるのを、手で口を塞いで必死に堪えた。
じっと寝たふりを続けていると、すっと重みが消えた。
ホッとしたのも束の間、バサッと布団を捲る音が聞こえた。
自分の布団かと思ったが、違った。
私はまだ薄闇に包まれたままだ。となると、真鈴か歩美の布団だ。
「アハハハハハハハッ」
けたたましい笑い声が聞こえる。誰の笑い声がわからない。
超音波みたいな暴力的でやかましい、酷い笑い声だ。
「きゃあっ」
歩美の悲鳴だ。
私は慌てて布団から出て、部屋の様子を確認する。
「アハハハハハハハッ」
笑っていたのは、真鈴だった。
ちょっと前までベッドで寝ていたはずなのに、布団を跳ね飛ばして起き上がり、けたたましく笑っている。
それも、髪を振り乱して首を激しく左右に振りながら。
「真鈴、怖いよ、やめてよ。ねぇ、しっかりしてよぉ」
歩美が真鈴の肩を掴んで彼女を揺すぶる。
しかし、真鈴は首を揺らしながらけたたましい笑い声をあげ続けた。
私は立ち上がり、電気を点けようとした。
だが、やっぱり電気のスイッチはオンになったままだし、紐を引っ張っても電気は点かない。
暗闇の中、真鈴の不気味な笑い声が響き続けている。
「真鈴、しっかりして!」
私は真鈴の顔を掴んで首を振るのをやめさせようとしたが、真鈴は私の手ごと首を揺らして笑っていた。
口を塞いでも、くぐもった笑い声を上げ続けている。
何分その状態が続いただろう。いきなり、真鈴は糸が切れたように静かになった。
そのまま布団に崩れ落ち、寝息を立てはじめる。
「りょ、涼花、これどういうことなの?」
泣きそうな顔で歩美が尋ねてきたが、私は答えられなかった。
翌朝、私も歩美も昨晩の出来事は真鈴には伝えなかった。
「あー、久しぶりによく寝てスッキリしたー」
真鈴が晴れやかな笑顔でそう言っていたからだ。
真鈴は落ち着いたようだが、私は落ち着かなかった。
家に戻ると、捨てたはずの黒塗りの櫛が机に戻っていた。確かにゴミ箱に捨てたのに。
母に聞いても、ゴミ箱の中身はそのまま捨てたし、櫛なんて拾っていないという。そうなると、櫛が勝手にゴミ捨て場から戻ってきたことになる。
怪現象は櫛だけにとどまらなかった。
二階の自室で勉強していた時、誰かが私の部屋のドアを叩いた。
母だろうと思ってドアを開けたが、誰もいない。
その次は窓だった。ベランダもないのに、誰が二階の窓を叩けるのだろう。間違いなく人間じゃない。
気付けば斜め後ろの押入れの扉が数センチ開いている。そこから、あの真っ青な目玉がじっとこちらを見ていた。
何もいない、何も見ていない。
私は目を閉じて、ぴしゃりと押入れの扉を閉じた。
数分後、気配を感じて振り返ると、また押入れがうっすらと開いている。
気持ち悪い。私は押入れの扉を再度締め直し、ガムテープを貼った。
おかげで扉が開くことはなくなったが、今度は別の現象が起きた。
「アナタはもう、ワタシのもの」
澄んだ声が耳元で囁く。部屋には私以外誰もいないのに。
怖くなって、私は耳にイヤホンを突っ込んだ。好きな音楽を聞きながら、勉強を再開する。
やっと、怪現象が止まった。
昼間でもこんなに怪現象があったのだから、夜はどうなってしまうのだろう。
その夜、私は怖い思いをしたくなくて九時にベッドに入った。
そしてまた、夢を見た。
歩美と真鈴がぐっすりと寝ているのを見ながら、ひとり電気を点けっぱなしの部屋で起きていた。
私と真鈴は本当に野呂紗千に呪われたのか。夢に出てきた着物の女はなんなのか。また変な夢を見るのではないか。
考えれば考えるほど恐ろしくて、眠れない。
パチッ、パチッ。
電気が急に明滅する。故障だろうか。
一度電気を消して付け直してみようと、腰を上げた。その瞬間、部屋の中が暗闇に包まれた。
歩美と真鈴はぐっすり寝ている。
怖かったけど、起こして怖い思いをさせるのもかわいそうだ。
私は頭から布団を被って、寝ようとした。
ミシ、ミシ、ミシ。
今度は何者かが階段を上がってくる音が聞こえてきた。
怖い、何が来たのだろう。ああ、怖くて眠れない。
ミシ、ミシッ。
床を踏みしめる音が部屋の前でとまった。部屋の前に誰かがいる気がする。
私は布団の中で息を詰め、じっと気配が去るのを待った。
ギギ、ギギィ。
不気味な音を響かせて、部屋の扉が開いた。
トン、トン、トン。足音が近づいてくる。
「うっ……」
体に重みを感じた。誰かが私の上に乗っかっている。
悲鳴を上げそうになるのを、手で口を塞いで必死に堪えた。
じっと寝たふりを続けていると、すっと重みが消えた。
ホッとしたのも束の間、バサッと布団を捲る音が聞こえた。
自分の布団かと思ったが、違った。
私はまだ薄闇に包まれたままだ。となると、真鈴か歩美の布団だ。
「アハハハハハハハッ」
けたたましい笑い声が聞こえる。誰の笑い声がわからない。
超音波みたいな暴力的でやかましい、酷い笑い声だ。
「きゃあっ」
歩美の悲鳴だ。
私は慌てて布団から出て、部屋の様子を確認する。
「アハハハハハハハッ」
笑っていたのは、真鈴だった。
ちょっと前までベッドで寝ていたはずなのに、布団を跳ね飛ばして起き上がり、けたたましく笑っている。
それも、髪を振り乱して首を激しく左右に振りながら。
「真鈴、怖いよ、やめてよ。ねぇ、しっかりしてよぉ」
歩美が真鈴の肩を掴んで彼女を揺すぶる。
しかし、真鈴は首を揺らしながらけたたましい笑い声をあげ続けた。
私は立ち上がり、電気を点けようとした。
だが、やっぱり電気のスイッチはオンになったままだし、紐を引っ張っても電気は点かない。
暗闇の中、真鈴の不気味な笑い声が響き続けている。
「真鈴、しっかりして!」
私は真鈴の顔を掴んで首を振るのをやめさせようとしたが、真鈴は私の手ごと首を揺らして笑っていた。
口を塞いでも、くぐもった笑い声を上げ続けている。
何分その状態が続いただろう。いきなり、真鈴は糸が切れたように静かになった。
そのまま布団に崩れ落ち、寝息を立てはじめる。
「りょ、涼花、これどういうことなの?」
泣きそうな顔で歩美が尋ねてきたが、私は答えられなかった。
翌朝、私も歩美も昨晩の出来事は真鈴には伝えなかった。
「あー、久しぶりによく寝てスッキリしたー」
真鈴が晴れやかな笑顔でそう言っていたからだ。
真鈴は落ち着いたようだが、私は落ち着かなかった。
家に戻ると、捨てたはずの黒塗りの櫛が机に戻っていた。確かにゴミ箱に捨てたのに。
母に聞いても、ゴミ箱の中身はそのまま捨てたし、櫛なんて拾っていないという。そうなると、櫛が勝手にゴミ捨て場から戻ってきたことになる。
怪現象は櫛だけにとどまらなかった。
二階の自室で勉強していた時、誰かが私の部屋のドアを叩いた。
母だろうと思ってドアを開けたが、誰もいない。
その次は窓だった。ベランダもないのに、誰が二階の窓を叩けるのだろう。間違いなく人間じゃない。
気付けば斜め後ろの押入れの扉が数センチ開いている。そこから、あの真っ青な目玉がじっとこちらを見ていた。
何もいない、何も見ていない。
私は目を閉じて、ぴしゃりと押入れの扉を閉じた。
数分後、気配を感じて振り返ると、また押入れがうっすらと開いている。
気持ち悪い。私は押入れの扉を再度締め直し、ガムテープを貼った。
おかげで扉が開くことはなくなったが、今度は別の現象が起きた。
「アナタはもう、ワタシのもの」
澄んだ声が耳元で囁く。部屋には私以外誰もいないのに。
怖くなって、私は耳にイヤホンを突っ込んだ。好きな音楽を聞きながら、勉強を再開する。
やっと、怪現象が止まった。
昼間でもこんなに怪現象があったのだから、夜はどうなってしまうのだろう。
その夜、私は怖い思いをしたくなくて九時にベッドに入った。
そしてまた、夢を見た。