放課後、さっそく歩美の家に集まった。

 白地に小花柄の愛らしい封筒に、綺麗な字で歩美ちゃんへと書いてある。
歩美は緊張した面持ちで封を切り、便箋を取り出した。

 広げた便箋には一面、同じ言葉が繰り返し書いてあった。 

「○×△■■〇×」

 意味はさっぱりわからない。だけど、その文字の羅列を見た瞬間、背筋がぞぉっと凍えて、本能的に嫌な気分になった。
 冷や汗が額から流れ落ちる。

「やだ、キモチワルイっ!」

 歩美が悲鳴を上げて、手紙をくしゃりと丸める。

「やっぱ、同じだ。ワタシと、同じ……」

 放心した顔で真鈴が呟いた。

「紗千はあたしたちに何を伝えようとしたのかな? 真鈴、どう思う?」
「あああぁぁぁぁぁっ!」

 真鈴はいきなり叫び声を上げ、ピンク色のラグの上に蹲った。

「呪われた、呪われた、呪われたっ。みんな、呪われたぁぁっ!」
「真鈴やめてよっ、怖いでしょっ!」

 歩美に非難されて、真鈴が呟くのをピタリとやめた。
真鈴はラグの上に丸まったまま、私と歩美を見上げる。
彼女の猫みたいな目は異様なほど爛々としていた。

「アハ、アハッ、アハハハハハッ!」

 突然大声で笑いだした真鈴に、歩美が甲高い悲鳴を上げる。

「真鈴、落ちついて。歩美も」

 私は二人を必死に宥めた。

歩美の肩を優しく叩き、真鈴の背中を優しく撫でながら静かに言う。

「二人とも、あんな意味不明な手紙の言葉を怖がる必要ないよ」

「でも、真鈴は紗千からの手紙を読んで、紗千に呪われた。あたしも呪われちゃったかもしれないでしょ」

 歩美のつぶらな瞳が不安げに揺れる。真鈴も暗い顔だ。
 私がなんとかしないと、二人を助けないと。

「真鈴、歩美。明日は土曜日だし、三人で野呂さんの仏壇に手を合わせよう。心から冥福を祈ったら、きっと野呂さんも成仏してくれるはず」

「え……、紗千の家に行くってこと?」

 真鈴が不満げな声を上げた。歩美もどことなく嫌そうな顔だ。
私は二人の気持ちに気付いていないふりをして、話を進める。

「野呂さんの家の場所はわかる?」
「あたしも真鈴も紗千とは同じ小学校で、なんどか遊びに行ったから知ってるよ」
「でも、この頃はぜんぜん遊びに行ってないし、いきなり行くのキツくない?」

「じゃあまず電話で約束しよう。スマホはもう解約されてるかもしれないけど、野呂さんの自宅の番号なら繋がるはず」

「ワタシ、知らないし」
「じゃあ歩美は?」

「小学校の連絡網は捨てちゃったし、紗千の自宅の番号なんてアドレス登録してないからわかんないかなぁ」

「じゃあやっぱり突撃訪問するしかないか」
「ねぇ、涼花。ほんとに行くの?」

「行く。それで恐怖から解放されるなら、手を合わせに行くぐらいしてもいいと思う」

「涼花の言う通りかも。行くよ、歩美」
「う~ん。そうだね、そうしよっか」
「サンキュー、涼花。アンタって冷静だし頭いいよね」
「そうでもないよ。でも、ありがと」

 否定したものの、私は確かに冷静だった。

クラスメイトであること以外、野呂紗千との接点がない私は、部外者気分が抜けていなかったからだ。
手紙に書かれた文字を怖いとは感じたが、自分が紗千の幽霊に脅かされることはないと、心のどこかでそう思っていた。

 だけど、違った。

「○×△■■〇×」

 この言葉を見た時点で、私は巻き込まれてしまっていたのだ。