「――これが、玖多留の港ができた頃のお話。ここから見える防波堤は百三十年程前からずっとこの玖多留の港を守っているの。それから、当時、室井光技師が作ったコンクリートの試験体は百年以上試験が行われてきたわ」
玖多留の街を歩きながら紡いできた歴史の案内を終える。
振り返れば玖多留の街並みが広がっている。それは玖多留だけでなく、北海道のあちこちにまで広がっている。
その広がりの起点は、開拓民の受け入れ拠点だったこの玖多留なのかもしれない。大げさではないと、彼に誓ってそう思う。
「ありがとうございました。僕達だけじゃ絶対にわからない事ばかりでした」
ペコリと頭を下げたのは、最初に返事をした男の子だ。
その言葉にお世辞ではないようで、若者たちは純粋にこの町を楽しんでくれた。昔取った杵柄だけど、案内の途中で唄を唄ってみせると、物珍しそうにしつつも喜んでくれた。
「ふふ、それならよかった」
「実は僕達、大学で土木を学んでて。せっかくの休みなら玖多留を見て来いって先生から言われて来たんですけど、正直来てもよくわからなくて……」
恥ずかしそうに男の子が頬をかく。
「そうなの。それなら、私達の孫みたいなものなのね」
私の言葉に若者たちは不思議そうにお互いの顔を見合わせる。
もちろん、彼らが私と血のつながった子孫というわけではない。ただ彼は、自分の教え子たちを本当の子どものように接してきた。
それならば、その系譜を受け継ぐこの若者たちは私達の遠い子どもたちに違いない。
「でも、ビックリしました。まるで見てきたようにお話されて、百三十年前の玖多留にタイムスリップしたみたいでした。いったいどうやって当時の人たちの話を集めたんですか?」
「ふふ。どうしてかしらね。もしかしたら、人魚の歌が今もなお響いているのかも」
私の言葉を冗談と思ったのか、若者たちがクスリと笑う。
この若者たちがこの場所から何か一つでも持ち帰ってくれればいい。
やがて巣立った彼らは、また別の場所で誰かにとっての大事な場所を築いてくれるだろう。
それが、彼と交わした約束だった。彼がいなくなってからも永い時を生きる私に残された役目。私が生きていくために遺された道標だ。
そんな彼との想いを胸に、私は若者たちへ笑いかける。
「この場所が貴方達の何か一つでも変えることができたなら、私も嬉しいわ。それじゃあ、貴方達の旅路に、幸多からんことを」



