先生が三つのことを伝え終えたとき、自然と目が覚めた。うまい具合に朝五時だったのですぐに起きて、先生に言われたことをしに外へ向かった。
言われたとおりに拾った木の枝で北の一点を始点にして母屋の周りに線を引いたあと、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
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※11/29追記。↑こちらも多分掲載したままだとエラーが出て掲載できないので、黒塗りしました。上の三つを実行した報告なので、怖い内容ではありません。
この日は梅中から追加のDMもなく、捜査を始めたであろう警察からの連絡もなかった。
職場への報告はためらったが、状況によっては仕事を抜けたり梅中のせいで周囲に迷惑を掛けたりする可能性がないとは言えないので、直属の上司にだけ報告。「じゃあ、バールのようなもの買っておこうか」と言われた。やめましょう。
終業後は、夫が帰宅するなら夕飯をあるもので済ませるわけにもいかないので、いつものスーパーへ寄ることにした。
夫の好物をいくつかカゴに入れてビールを選んでいたとき、不意に背中が冷たくなった。ぞわりいやなものが這い上がるような感覚が走って、視線を感じた。
慌てて振り向くと、背後にあるおつまみの棚の端から梅中が窺っているのが見えた。私に気づいて身を引いた梅中を思わず追い掛けてしまったが、棚の向こうにも、どこにもその姿はなかった。
なんとなく、いやな予感がした。先生は私に物理的な身の危険に備えた守りを与えてくれたのかと思っていたが、そうではないのかもしれない。
もしかしたら、梅中はもう死んでいるのではないだろうか。
そう考えた途端にとんでもなく恐ろしくなって、急いでレジを済ませて家に帰った。
家には変わりなく、犬達もいつもどおりだった。餌をやり夕飯を作って風呂の支度をしていると、外で車の音がした。夫が帰ってきたのだろうと思ったが、しばらく経っても玄関を開ける音がしない。犬も吠えない。風呂の支度を終えて玄関へ向かうが、靴もなかった。
いやな予感はしたものの外に出てはいけない気がして、廊下へ回る。駐車場の方を確かめようとカーテンを引いたとき、部屋の灯りが窓外の何かを照らした。人影のように見えたが、すぐに光のない方へと消えていってしまったから分からなかった。
カーテンを閉めて部屋に戻ると、犬達が落ち着かない様子でうろついていた。やはり、何かを察しているらしい。外へ意識を向けると、人が走っているかのような物音がしていた。ただそれが……母屋の周りをひたすらぐるぐると回っているかのような音なのだ。
その時ようやく、朝私が引いた線の内側に入ってこられないのだと気づいた。やはり、梅中はもう人間ではない。となれば、連絡すべきは警察ではない。夫だ。
もし帰宅してきた夫がそこに居合わせたら、きっととんでもないことが起きてしまう。先生が、「このままだと大変なことが起きる」と言ったくらいだ。
すぐにスマホを取り出し夫に連絡しようとしたとき、駐車場の方で音がした。今度こそ間違いなく夫だろう。電話をかけると、すぐに繋がった。
「車から出ないで、中にいて!」
夫が話し出すより早く言うと、何かを察したようだった。
「警察に連絡は」
「してない。今、家の周りをぐるぐる回ってるんだけど、あれ多分生きてないやつだと思う」
続けた私に、夫は黙った。
うちの夫婦は霊能者みたいに霊が見えたり話せたりするわけではないが、二人とも不可思議な体験を何度かしているので、霊の存在を信じている。ちなみに夫の実家であるこの家にも一箇所どうにも気になる場所があり、それとなく夫に尋ねたら、夫が指差した場所と一致していた。子供の頃にその座敷から白い何かが二階の自分の部屋へと抜け出てきて、夫は跳ね起きて逃げたらしい。
だから私が突然こんなことを言い出しても、訝しむことはない。
「なら、これ以上近づかない方がいいな。車中泊するから、一旦準備で離れるわ」
「その方がいいと思う。外に出なければ多分、大丈夫だから」
あっさりと了承した夫に安堵して通話を終え、無事を祈りながら離れていく音を聞いた。
相変わらず続いている足音に溜め息をつき、気持ちを奮い立たせて夜のルーティーンを済ませてしまうことにした。もしかしたら、そのうち諦めるかもしれない、と淡い期待も抱いていないわけではなかった。
実は、こういう時に頼れる住職もいるのだが(『鳥山さん』参照)、今回の件は身から出た錆のような気がして頼めなかった。
示談のとき梅中は否定したが、私は別れの一幕が全ての原因だと考えていた。確かに、私の言い分は正しかったのかもしれない。でも的確ではなかった。わざとではなくとも、恨みを買うような物言いをしてしまった。私自身、その悔いが引っ掛かっていたのだ。
結局、足音は消えることはなかった。あの線に一番近いであろう風呂ではザッザッと裏庭の砂利を踏む音がよく聞こえて、ろくに洗わず飛び出した。
眠る前にもう一度夫に連絡して無事を確かめたあと、犬達を呼んで寝室へ向かった。そのときふと、梅中に詫びればいいのではないか、と胸に浮かんだ。私にも悔いがあるのは確かなのだから、誠実に詫びれば伝わるかもしれないと思ったのだ。
そこで手を合わせ、胸の内で外にいる梅中に詫び始めた。
あの頃の私は世間知らずで、適した言葉をうまく選べなかった。あなたを傷つけるような言い方をしてしまったことを後悔している。本当にごめんなさい。あなたが成仏できるよう心から、と続けた途端、ばちん、と強烈な音がしてガラスが割れる音がした。
驚いて音のした方へ行ってみると、廊下の窓ガラスにヒビが入っていた。ポケットで鳴り始めたスマホを取り出すと、夫からだった。さっきの音は、夫にも聞こえていたらしい。事情を話すと、「顔真っ赤にして殴った姿が見えるわ」と言った。
電話を終えたとき、あの足音が消えているのに気づいた。
その晩、また夢に先生が出てきた。
薄笑いで一言、「あれは私が呑みました」と残して消えた。
言われたとおりに拾った木の枝で北の一点を始点にして母屋の周りに線を引いたあと、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。
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※11/29追記。↑こちらも多分掲載したままだとエラーが出て掲載できないので、黒塗りしました。上の三つを実行した報告なので、怖い内容ではありません。
この日は梅中から追加のDMもなく、捜査を始めたであろう警察からの連絡もなかった。
職場への報告はためらったが、状況によっては仕事を抜けたり梅中のせいで周囲に迷惑を掛けたりする可能性がないとは言えないので、直属の上司にだけ報告。「じゃあ、バールのようなもの買っておこうか」と言われた。やめましょう。
終業後は、夫が帰宅するなら夕飯をあるもので済ませるわけにもいかないので、いつものスーパーへ寄ることにした。
夫の好物をいくつかカゴに入れてビールを選んでいたとき、不意に背中が冷たくなった。ぞわりいやなものが這い上がるような感覚が走って、視線を感じた。
慌てて振り向くと、背後にあるおつまみの棚の端から梅中が窺っているのが見えた。私に気づいて身を引いた梅中を思わず追い掛けてしまったが、棚の向こうにも、どこにもその姿はなかった。
なんとなく、いやな予感がした。先生は私に物理的な身の危険に備えた守りを与えてくれたのかと思っていたが、そうではないのかもしれない。
もしかしたら、梅中はもう死んでいるのではないだろうか。
そう考えた途端にとんでもなく恐ろしくなって、急いでレジを済ませて家に帰った。
家には変わりなく、犬達もいつもどおりだった。餌をやり夕飯を作って風呂の支度をしていると、外で車の音がした。夫が帰ってきたのだろうと思ったが、しばらく経っても玄関を開ける音がしない。犬も吠えない。風呂の支度を終えて玄関へ向かうが、靴もなかった。
いやな予感はしたものの外に出てはいけない気がして、廊下へ回る。駐車場の方を確かめようとカーテンを引いたとき、部屋の灯りが窓外の何かを照らした。人影のように見えたが、すぐに光のない方へと消えていってしまったから分からなかった。
カーテンを閉めて部屋に戻ると、犬達が落ち着かない様子でうろついていた。やはり、何かを察しているらしい。外へ意識を向けると、人が走っているかのような物音がしていた。ただそれが……母屋の周りをひたすらぐるぐると回っているかのような音なのだ。
その時ようやく、朝私が引いた線の内側に入ってこられないのだと気づいた。やはり、梅中はもう人間ではない。となれば、連絡すべきは警察ではない。夫だ。
もし帰宅してきた夫がそこに居合わせたら、きっととんでもないことが起きてしまう。先生が、「このままだと大変なことが起きる」と言ったくらいだ。
すぐにスマホを取り出し夫に連絡しようとしたとき、駐車場の方で音がした。今度こそ間違いなく夫だろう。電話をかけると、すぐに繋がった。
「車から出ないで、中にいて!」
夫が話し出すより早く言うと、何かを察したようだった。
「警察に連絡は」
「してない。今、家の周りをぐるぐる回ってるんだけど、あれ多分生きてないやつだと思う」
続けた私に、夫は黙った。
うちの夫婦は霊能者みたいに霊が見えたり話せたりするわけではないが、二人とも不可思議な体験を何度かしているので、霊の存在を信じている。ちなみに夫の実家であるこの家にも一箇所どうにも気になる場所があり、それとなく夫に尋ねたら、夫が指差した場所と一致していた。子供の頃にその座敷から白い何かが二階の自分の部屋へと抜け出てきて、夫は跳ね起きて逃げたらしい。
だから私が突然こんなことを言い出しても、訝しむことはない。
「なら、これ以上近づかない方がいいな。車中泊するから、一旦準備で離れるわ」
「その方がいいと思う。外に出なければ多分、大丈夫だから」
あっさりと了承した夫に安堵して通話を終え、無事を祈りながら離れていく音を聞いた。
相変わらず続いている足音に溜め息をつき、気持ちを奮い立たせて夜のルーティーンを済ませてしまうことにした。もしかしたら、そのうち諦めるかもしれない、と淡い期待も抱いていないわけではなかった。
実は、こういう時に頼れる住職もいるのだが(『鳥山さん』参照)、今回の件は身から出た錆のような気がして頼めなかった。
示談のとき梅中は否定したが、私は別れの一幕が全ての原因だと考えていた。確かに、私の言い分は正しかったのかもしれない。でも的確ではなかった。わざとではなくとも、恨みを買うような物言いをしてしまった。私自身、その悔いが引っ掛かっていたのだ。
結局、足音は消えることはなかった。あの線に一番近いであろう風呂ではザッザッと裏庭の砂利を踏む音がよく聞こえて、ろくに洗わず飛び出した。
眠る前にもう一度夫に連絡して無事を確かめたあと、犬達を呼んで寝室へ向かった。そのときふと、梅中に詫びればいいのではないか、と胸に浮かんだ。私にも悔いがあるのは確かなのだから、誠実に詫びれば伝わるかもしれないと思ったのだ。
そこで手を合わせ、胸の内で外にいる梅中に詫び始めた。
あの頃の私は世間知らずで、適した言葉をうまく選べなかった。あなたを傷つけるような言い方をしてしまったことを後悔している。本当にごめんなさい。あなたが成仏できるよう心から、と続けた途端、ばちん、と強烈な音がしてガラスが割れる音がした。
驚いて音のした方へ行ってみると、廊下の窓ガラスにヒビが入っていた。ポケットで鳴り始めたスマホを取り出すと、夫からだった。さっきの音は、夫にも聞こえていたらしい。事情を話すと、「顔真っ赤にして殴った姿が見えるわ」と言った。
電話を終えたとき、あの足音が消えているのに気づいた。
その晩、また夢に先生が出てきた。
薄笑いで一言、「あれは私が呑みました」と残して消えた。