母はこの力を他者に利用されないようにとふたりに秘密にするように言っていた。
 だが、凪は自分で利用して境遇を変えることにしたらしい。
 しかし、よりによって正一との結婚を選ぶなんて。
 三年過ごして、彼がどういう人間なのかはわかったつもりだ。利己的で思いやりなんてない。正一の父は祖父の傀儡のように仕事をするだけ、いつも無表情で魂の抜けたかのようだ。祖父の周之助にいたっては若返りのためと称して羽月の血を飲んでいる。目の前で盃に注いで飲んでいるのを見たことがあるから、それは確かだ。
 まさか凪までそのような目に合わされるのだろうか。
「凪は……凪を傷付けることだけはおやめください」
 自分のように腕を切られ、血を取られることにはならないでほしい。できるなら、きちんと愛して大切にしてほしい。ただひとりの肉親、羽月のよりどころ。
「するわけないだろう。大事な嫁だ」
 正一の言葉を信じていいのかわからないが、少なくとも「嫁」として扱うつもりのようだ。
 羽月は少しだけ安堵し、息をもらした。
「初めからそうするべきだった。お前との結婚が間違いだったのだ」
 見下す声には明らかな嘲りがあり、羽月はうつむいた。
「夢見鳥の娘はかつては我が一族のものだった。逃げ出した者がいたのちはずっと行方を追っていた。ようやく取り戻したのだ、逃げるなよ。芋虫のようなお前に行く先などあるまいが」
 羽月は呆然と彼を見た。
 どうして秘された姓を知っているのだろう。
 もしや。
 羽月は青ざめた。