「本当に……離縁なのですか」
 だからそれは問うというよりも確認だった。
「そうだ、お前とは離縁して(なぎ)を妻にする」
 正一はかたわらの凪の肩を抱く。
 羽月は十八歳で、凪は十五歳。正一は二十五歳だ。若い妻を求めるのは男の性分とも思われたが、それにしても自分だとて充分に若いように思えるし、よりによってようやく結婚を許されたばかりの年齢の妹を後妻にするのはなんということだろう。
「離縁はするが、お前は使用人としてこのまま家に仕えろ。どうせ出て行く先もないのだろう」
 正一はせせら笑う。
「あら、どうせなら追いだしてくださればよろしいですのに」
 凪は媚びるように正一に言う。
 羽月は凪の態度に戸惑った。
 羽月が結婚して家を出るまで、凪との関係は良好だった。このように姉を追い出そうとするなど、どういう心境の変化があったのだろうか。姉にきつく当たりたくなるほどつらい目に遭ったのだろうか。
「こいつには用はないが、こいつの血は必要だ。面倒なことだ、凪のように正真の『力』があれば良いものを」
 凪には人のケガを癒す力がある。手をかざすだけでそれは成るため、羽月のように血を絞り取る必要がないし、ましてやそれを飲まなければならないということもない。だから彼は羽月を偽物扱いし、凪の力を本物と断じているようだった。
「凪……力のことを話したの……?」
「話したわ。そうしたら私を嫁にもらってくださるっておっしゃっていただけたの。もっと早く話していたら良かったわ。そしたら最初から私が妻になれたのに」