羽月の血が万病に効くと知ったのは、正一の口からだった。
それを薄めて秘薬として病気やケガに悩む政府高官や華族たちに高値で売り、利益を得ているという。
そんな怪しげなものが役に立つのかわからなかったが、自分の腕につけられた傷が見る間に治っていくのを見ると、そういう力があるのかもしれないと思った。
それからは週に一度、一合の徳利に血をとられるようになった。
それが三年続いた。
この先一生、血をとられ続けていくのだと思った。
まさか今日、その運命が変わるのだとは予想もしなかった。
下座敷で火鉢に寄って待っていた羽月は、耳に届いた足音に居ずまいを正した。
障子に移る人影はふたり、正一と、もうひとりは女性のようだ。
障子が開いて、羽月は驚いた。
正一が連れていたのが妹の凪だったからだ。
結婚してからは一度も会えていない。だけど見間違えるはずがない。
三年ぶりに会う妹はやつれていたが、今は豪華な振袖に身を包んでいた。
床の間に飾られた掛け軸も、それを引き立てるようにこじんまりと飾られた花もなにもかももう目に入らない。
だが、会えた喜びに浸る間はなかった。
「お前とは今日限り、離縁する」
正一が告げる。
羽月は耳を疑った。本当なのかと問いただしたいが、座敷の上座に座った彼の得意げな顔に、妹の勝ち誇ったような笑みに、聞き返すまでもなくそれが事実なのだと思い知る。
それを薄めて秘薬として病気やケガに悩む政府高官や華族たちに高値で売り、利益を得ているという。
そんな怪しげなものが役に立つのかわからなかったが、自分の腕につけられた傷が見る間に治っていくのを見ると、そういう力があるのかもしれないと思った。
それからは週に一度、一合の徳利に血をとられるようになった。
それが三年続いた。
この先一生、血をとられ続けていくのだと思った。
まさか今日、その運命が変わるのだとは予想もしなかった。
下座敷で火鉢に寄って待っていた羽月は、耳に届いた足音に居ずまいを正した。
障子に移る人影はふたり、正一と、もうひとりは女性のようだ。
障子が開いて、羽月は驚いた。
正一が連れていたのが妹の凪だったからだ。
結婚してからは一度も会えていない。だけど見間違えるはずがない。
三年ぶりに会う妹はやつれていたが、今は豪華な振袖に身を包んでいた。
床の間に飾られた掛け軸も、それを引き立てるようにこじんまりと飾られた花もなにもかももう目に入らない。
だが、会えた喜びに浸る間はなかった。
「お前とは今日限り、離縁する」
正一が告げる。
羽月は耳を疑った。本当なのかと問いただしたいが、座敷の上座に座った彼の得意げな顔に、妹の勝ち誇ったような笑みに、聞き返すまでもなくそれが事実なのだと思い知る。