養い親に意見はできなかった。それをすれば折檻が待っているだけだ。
「どうか、凪を……よろしくお願いします」
 羽月にできることは、妹が不憫な目に合わないように頼むことだけだった。

 そうして大燕家に嫁に来た羽月は、訪問した日に初めて夫となる正一と会った。
 彼は当主である周之助の二十二歳になる孫であり、不機嫌そうに羽月を見やった。
 周之助は上機嫌に羽月を迎えたが、彼の息子であり正一の父である修太朗は無表情だった。
 正一の祖母と母はすでに亡い。
 この家の妻は総じて早世するという。
 自分もまた早く逝くのだろうか。
 そう疑問に思いながら、正一との初夜。
 彼は寝所に来なかった。
 ほっとしたその翌日、羽月は使用人たちにおさえつけられ、腕を切られ血をとられた。
「欲しいのはお前じゃなくてお前の血だ」
 正一の宣告は残酷に響いた。どうして血が欲しいのかもわからないのだが、自分はどこにも居場所がないのだと知らされたかのようだった。
 裕福な家であるというのに祝言は行われなかった。羽月はまるで秘密の嫁のように離れに隠されたが、決して寵愛ゆえではない。自室として与えられた離れは粗末な小屋でしかなく、愛などかけらも感じられなかった。
 彼女は毎日を使用人として過ごした。
 養い親の家にいたときよりマシ、と彼女は自分に言い聞かせて過ごした。
 妹に会いに行くことは許されず、様子がわからないままに日々が過ぎていく。