姉の羽月のことだ。
 そろそろだ、となぜか凪は思っていた。
 もうすぐ羽月は旅立つだろう。伴侶である鳳羽とともに。
 そうしてそれはきっと満月の夜だ、とも思っていた。
 羽月は凪を見るたびに笑みを零し、幸せそうに目を細める。
 ふたりともかつて養親のところにいたときとは違い、きちんと食事をとり、身なりを整えて過ごすことができていた。
 凪の現在、そしてこの先に目途がついたことで、安心して鳳羽のところへ行くのだろう。そう思っていた。
 そうして迎えた満月の夜。
 床を並べて寝ていた姉は、ひっそりと布団から起き上がった。
 気配に気づいた凪は、姉を驚かさないようにゆっくりと起き上がる。
「凪、起きていたの」
 羽月の言葉に、凪は頷く。
「きっと今日だと思って」
 それだけで、羽月には伝わった。
「ごめんね、私、どうしても」
「謝らないで。お姉ちゃんが幸せなら、それでいい」
「ありがとう、凪」
 羽月はそっと凪を抱きしめる。
 凪が抱きしめ返すと、その手にぎゅっと力がこもった。
 障子に男の人影が映る。