「人は生きたがるものだ。死にたいは生きたいの裏返し。伴侶とともに生きていたかったのだろう。寿命をまっとうしたのちは次代に伴侶の魂を探すがいい」
「あなた様とは違います。ただの人である私に見つかろうはずがございません」
「私とてすぐに見つけられるわけではない。だから探すのだ」
 (しる)べとなるものはなにもなく、ただ探して、探して。
 鳳羽ならば見ただけでつがいであるのかどうか、魂でわかることができる。
 人ならば、ようやく見つけた(ひかり)が本物なのかどうか確認する術もないだろう。
 だが、人は築いた愛を本物とすることができる。鳳羽はなんどもそれを見て来た。
 人は強い、とだからこそ鳳羽は思う。鳳羽にはただひとり、今世では羽月と名乗る彼女しかいないのだ。彼女が生まれ変わると知っているからこそ、永い世を生きていける。おそらくは彼女がいなければ脆く、なにをよりどころとしていいのかわからなくなることだろう。
 羽月のまぶたがぴくりと動く。
 鳳羽が見つめる中、目を覚ました羽月はぼんやりと彼を見る。
「私……もう生まれ変わったの?」
「そういうわけではない」
 鳳羽は苦笑した。
「お姉ちゃん!」
 凪の声に、羽月ははっとする。
 体を起こそうとすると鳳羽が支えてくれて、羽月は目を大きく開けて凪の姿を確認する。手を伸ばすと、凪はしっかりとその手を掴んで力を込める。
「鳳羽、助けてくれたの?」
「そなたの力だ」
「私が……」
「そなたの涙が命を運ぶ蝶となり、凪を取り戻した。あと少し遅ければ危なかった。そなたは命の力を取り戻したのだよ」
「良かった……」
 羽月は喜びの涙を流す。だが、今度は奇跡の蝶は現れることなく、人としての涙があふれてこぼれる。
 姉妹は喜びに抱き合い、鳳羽はそれを優しく見守っていた。