うつろをたゆたう夢見鳥は最愛のつがいを甘く取り戻す

 羽月は痛みに呻きながら小刀を引き抜き、再度、自分に突き立てる。
「羽月、なんということを」
 羽月は胸から大量に流れる血を掬い、最後の力を振り絞って凪の口に含ませる。が、凪はそれを飲み込むことなくただ口からこぼれでた。
 間に合わなかったのか。
 もう駄目なのか。
 羽月は血に塗れた手で凪の頬を撫でる。
 凪はぴくりともせず、ただ血に塗れて横たわっている。
 羽月はその横に力なく倒れた。
「羽月、羽月」
 鳳羽が羽月の半身を抱き上げると、彼女の瞳から光るものがあふれた。
 願いを込めたその雫から、金色の蝶が生まれる。
 蝶はひらひらと舞い、凪の胸にすうっと吸い込まれていった。
 羽月はそれを見届けることなく、かくりと首を垂れる。
「羽月……」
 鳳羽は血に塗れるのもかまわず羽月を抱きしめる。
「みだりに己を傷付けて……」
 鳳羽は悲し気に愛し気にその髪を撫でる。
 しばらくすると、凪が目を覚まし、まばたいた。
「あれ、私……お姉ちゃん!」
 血まみれの姉に驚き、次いで自分も血に塗れていることに気が付く。口の中はなぜか血の味がした。