「だけど、私は力が……」
 羽月は鳳羽の手を逃れようともがく。だが、彼は大切な羽月を放そうとはしない。
 刺してしまえば人質としての価値はなくなる。だから凪を殺すことはないのだろうと鳳羽はたかをくくっていた。
 そしてまた、永世を生きる彼は見くびっていた。
人の、周之助の生への執着を。
 周之助は吹き出すその血を浴びるように飲む。
 命の力を得るために。
「凪、そんな」
「なんと浅ましい」
 鳳羽は美しい顔をしかめ、右手を一閃した。
 死を運ぶ銀の蝶の群れが現れ、周之助にたかる。
 負けじと血をすする周之助を、蝶はすっぽりと包み込む。
 凪は虚ろな目であらぬ方向を眺めている。
 やがて周之助の腕が細くなり始める。
「血……血を……」
 周之助がふらりと動いた。
 執念深く小刀を握ったままだ。たかっている銀の蝶の隙間から、落ち窪んだ目が羽月を捉える。
「お前の……血を……」
 周之助がばたりと倒れた。
 鳳羽の力が解けて、羽月は慌てて凪に駆け寄る。
 周之助から小刀をもぎ取り、自らの左腕につきたてて血を流す。