「くそ!」
 周之助が年に似合わぬ俊敏な動きで凪のもとへ走りより、懐から出した小刀を凪につきつける。凪は抵抗する気力もなくただぐったりしている。
「近寄るな、こいつの命が惜しければ!」
「凪……!」
 羽月が思わず身を乗り出すが、鳳羽はぎゅっと彼女を抱きしめて離さない。
「お姉ちゃん……」
 凪はもがくが力が入らないようで、周之助の腕をゆるく掻くばかりだ。
「人は同じような行動をするものなのだな。それとも血が繋がっているからなのか」
 ふっと右手を一閃すると白銀色の蝶が現れた。鱗粉を振りまきながら、ひらひらと周之助に向かう。
「な、なんだ、くそ!」
 小刀を振り回し、銀の蝶を追い払おうとする。が、蝶は攻撃を(かわ)し、周之助の腕に止まる。そうして蜜を吸うように彼の命を吸い始めた。
 父が命を奪われようとしている様を、修太朗は暗い喜びを(ひそ)めて眺めていた。
「くそ!」
 周之助が小刀を凪の首に刺し、凪は声にならない悲鳴を上げる。
「凪!」
 羽月は思わず叫び、鳳羽もはっとそれを見やる。
「凪、凪……」
「今は駄目だ」
 無情にも鳳羽は羽月を押しとどめる。
「だけど、凪が……」
「そなたの力で蘇らせればいい」
 自由に力をふるうことのできる鳳羽はたやすいことのようにそう言う。