「鳳羽!」
 叫び声とともに羽月が飛び出す。
「羽月、なにを!」
 驚く鳳羽と周之助の間に、羽月が飛び込んでいた。

***

 血を奪った周之助たちが去ったあと、羽月は凪を布団に寝かせて彼女の手をさすっていた。落ちたかんざしを拾って挿し直す気力などなく、それよりも凪のほうが大切で、ただ回復を願っていた。
 昔のように癒しの力があればいいのに。
 そうしたらすぐにでも凪に力を注いで癒すのに。
 だが、どれだけ念じても願ってもその力は発現せず、凪はくたりと横たわったままだ。凪自身は力の源となる血を抜き取られているせいで、自身を癒す力を発動することなどできない。
 やがて誰かが駆けて来る足音がして扉の開く音がした。
 土間を見て、羽月は驚いた。
 鳳羽がそこにいたからだ。
 迎えに来てくれた。そう喜んだのもつかの間、修太朗の問いかけに「欲するのは羽月のみ」と凪を見捨てるような発言をした。
 やはり彼にとって凪は見捨てて良い命のひとつに過ぎないのだ。
 その現実に、彼の言葉を素直に聞けなくなった。彼の発する訂正はその場を取り繕う言い訳にしか聞こえない。
 永世を生きて人とは交わらない彼には人の情などわからないのだろう、と羽月は思った。
 彼はいつの世でもまっすぐに彼女を求め、それ以外を斬り捨てる傾向にあったから。