まだ十歳にならない彼女らに与えられたのは家事のすべて。朝早くからの水汲み、炊事、掃除、洗濯などなど。
両親が健在だったときにも家事を協力して行ってきたが、両親とともに行うそれは苦痛ではなかった。養い親は完全にそれらを羽月たちに押し付け、自分たちは動こうとしない。
不出来であれば罵られ、ときには手が出ることもあった。
与えられる食事は粗末で、成長期のふたりには充分とは言えなかった。
凪の癒しの力は隠していた。知られたらどのように利用されるかわからない。
ふたりで支え合い、どうにか羽月が十五歳を迎えたときだった。
養い親から大燕家への縁談を申し渡された。それは命令であり、羽月に断ることなどできようもない。
「街でお前を見かけて見初めたそうだよ。あの大燕家からの縁談だなんて、お前は運がいい」
「支度金をたんまりといただけるそうだ」
そう言われても羽月には戸惑いしかなかった。
大燕家は薬を売る商家として名高い。華族にもひけをとらないお屋敷に住み、舶来の自家用車まで持っていると言う。
「妹は……凪はどうなるのでしょう」
「嫁はひとりと決まっているだろう」
羽月の無教養をなじるように養父は言うが、羽月が心配しているのはそういうことではない。嫁がひとりだなんてことは言われずとも知っていることだ。
「では、凪は……」
「嫁に行ける年になるまではこの家にいる」
羽月は不安に凪を見た。凪もまた不安に羽月を見ている。
ひとりで残される凪は二倍の仕事をこなさなくてはならなくなるだろう。
両親が健在だったときにも家事を協力して行ってきたが、両親とともに行うそれは苦痛ではなかった。養い親は完全にそれらを羽月たちに押し付け、自分たちは動こうとしない。
不出来であれば罵られ、ときには手が出ることもあった。
与えられる食事は粗末で、成長期のふたりには充分とは言えなかった。
凪の癒しの力は隠していた。知られたらどのように利用されるかわからない。
ふたりで支え合い、どうにか羽月が十五歳を迎えたときだった。
養い親から大燕家への縁談を申し渡された。それは命令であり、羽月に断ることなどできようもない。
「街でお前を見かけて見初めたそうだよ。あの大燕家からの縁談だなんて、お前は運がいい」
「支度金をたんまりといただけるそうだ」
そう言われても羽月には戸惑いしかなかった。
大燕家は薬を売る商家として名高い。華族にもひけをとらないお屋敷に住み、舶来の自家用車まで持っていると言う。
「妹は……凪はどうなるのでしょう」
「嫁はひとりと決まっているだろう」
羽月の無教養をなじるように養父は言うが、羽月が心配しているのはそういうことではない。嫁がひとりだなんてことは言われずとも知っていることだ。
「では、凪は……」
「嫁に行ける年になるまではこの家にいる」
羽月は不安に凪を見た。凪もまた不安に羽月を見ている。
ひとりで残される凪は二倍の仕事をこなさなくてはならなくなるだろう。