「やめて!」
 羽月が叫ぶ。
「殺さないで」
 懇願に、鳳羽は舌打ちをしたい気持ちになった。
 羽月は命を司るためか、それを奪うことを嫌った。どのみちいつか尽きるものを奪っていいものではないのだ、と。
「殺しはしない」
 鳳羽は加減をして力を放った。何頭もの銀の蝶が生まれ、鱗粉を彼らに振りまく。
 使用人たちは意識を失い、ばたばたと倒れた。
 鳳羽はほんの少し彼らから命を削り取ったのだ。一日はだるさが残るだろうが、後遺症は残らないはずだ。
「なにごとだ」
 正一と周之助が駆け付け、鳳羽を見て息を呑んだ。銀の髪に銀の瞳、それは大燕家に伝わる死の夢見鳥と同じ姿だ。
「どうしてここに……。お前のせいか!」
 周之助が修太朗を見て怒鳴り付ける。
 修太朗は気弱そうな表情をひっこめて、にやりと笑った。
「あんたが忌み嫌っている死の使いを呼び込んでやったぞ」
「うつけめ! どうしてこのような真似を」
「俺はあんたが憎かった。生まれてからずっと支配されて、母も妻もあんたのせいで死んだ。俺はなにもできなかった。怖くて逆らえなくて」
 だからそんな弱い自分を憎んだ。
 いつか機会があれば復讐してやると思っていた。