「お客人、どうされましたか。そこは駄目なのですよ」
 追いついた修太朗が声をかける。
「お義父様……」
 思わず羽月はつぶやいていた。
 修太朗は鳳羽を見る。
「あなたが向かうべきは彼女ではないのではありませんか」
 修太朗の目がぎらりと光り、鳳羽はいぶかしげに彼を見た。
「私が欲するのはただ羽月のみ。ほかはいらぬ」
 鳳羽の言葉に、羽月の目には絶望が浮かんだ。
「やっぱり……」
 こぼれた彼女のつぶやきに鳳羽はハッとする。
「違う、妹を見捨てるという意味ではない」
 だが、羽月は凪をかばうように鳳羽との間に立ちはだかる。
「誰か! 侵入者だ! 当主と正一を呼べ!」
 修太朗が声を上げる。
「羽月、早く凪を連れて出るぞ」
 だが、羽月は一歩も動こうとしない。
 このようなときに。
 鳳羽はじれた。こうなったら力づくで連れ出すしかないのか。
 ばたばたと人の足音が続き、使用人が何人も走って来る。
 鳳羽はその力をふるうべく右手を掲げた。