彼はどこか買い物から戻ったばかりのようで、手に荷物の入った包みを持っている。
「ええ、ご当主をお訪ねしたのですが、つい立派な数寄屋門に見惚れておりました」
 なにごともないかのように鳳羽は答える。
「まだ外は寒うございます、どうぞ中へ」
「ありがとうございます」
 鳳羽は銀の瞳をきらりと光らせ、心底からの感謝を述べた。
彼とともに門をくぐったとたん、鳳羽は走り出した。
 修太朗は驚いてその姿を見送る。が、通りかかった使用人に荷物を預けるとそのあとを追った。
 鳳羽はかんざしの気配がする方へ走る。粗末な小屋があった。その扉を大きく開けると中では羽月が凪に寄り添うようにして座っていた。
「羽月!」
「鳳羽!」
 羽月は思わず腰を浮かせた。
「お姉ちゃん、どなた?」
 羽月はどう説明していいのかわからず、両者の間に視線を往復させる。
「説明などあとだ、早く行こう。妹も一緒に」
 羽月は返事をためらった。
 鳳羽は凪が幸せに暮らしていると嘘を吐いていた。この言葉を信じていいのだろうか。
 彼からの自分への愛を疑ったことはない。だが愛ゆえに羽月を守るため、凪を見捨てる言動をするのではないのか、その疑念が生まれてしまっていた。
「早く、あの男たちが来る前に」
 急かす鳳羽の後ろに人影が現れた。