「ああ、力がみなぎる」
 周之助はいまやしゃっきりと立ち、杖を正一に押し付けた。
「この離れには見張りを立てて絶対に逃げられないようにしろ。子を産ませることができれば、息子ではなくお前を次の当主にしてやるからな」
「わかりました」
 正一は野心に燃える目で頷いた。

***

 人は必ず家の外に出て来る。
 鳳羽はしんぼう強く屋敷の外で待った。
 屋敷の者でなければならない。使用人では駄目だ。
 この屋敷の者といえば、当主の周之助、息子の修太朗、孫の正一。
 この三人の誰かに招かれなければ中には入れない。
 かろうじて、銀のかんざしにこめた力で羽月が中にいる気配が窺える。
 屋敷に子どもでもいればたやすかった。羽月に与えた銀のかんざしを蝶に変化(へんげ)させていざなえば、すぐにでも外に出させることができるし、言葉たくみに家の中に招き入れさせることもできただろう。
 だが、知恵のついた大人ばかりではそれもかなわない。
「おや、お客人ですかな」
 のんきな声がして、鳳羽ははっとそちらを見た。
 修太朗だった。気の弱そうな風貌は周之助の妻である母に似たのだろう、息子の正一のような傲慢な気配もない。