その様を見て、周之助はせせら笑う。
「どうせお前は傷をつけてもすぐに治るんだろうに。死ねないんだよ、寿命が来るまで」
 周之助の言葉に、羽月は歯噛みする。
「お前が死ねば木乃伊にしてやろう。死肉であれども妙薬となるだろう。以前はあの死の使いに邪魔されて一緒に封印するしかなかったが、今度はそうはさせない。そうだ、あの木乃伊も今後は薬として売ることにしよう。もう封印の必要はないのだしな」
 周之助の笑みは下卑に満ちていた。
「二頭ともに逃すまい。妹は血が薄いが、癒しの力は利用できる。家の者に再度、通達しろ。なにものも家の中に入れるな、とな」
「はい、当主様」
 正一は素直に頷く。
 二頭、という言葉に羽月は悔しくふたりを見た。完全に自分たちは人間として見られていない。蝶を数えるように二頭と言われたのだから。
「特に修太朗に念を押しておけよ。あいつはお前と違ってうつけだからな」
「はい」
 正一は頷く。父をけなされてもなんとも思わない。彼が小さなころから周之助は父をうつけと罵ってきたし、大人となった今では正一も修太朗をうつけだと思うようになっていた。
 常に腑抜けた様子でびくびくと周之助の機嫌を窺い、命じられたとおりに薬屋の仕事をこなすのみ。あんな男に家督を継げるようには思えなかった。
 周之助は懐から盃を出すと徳利からなみなみと注ぎ、それを飲み干す。盃にへばりついた一滴たりとも無駄にするまいと舐めとり、羽月を見てにたりと笑う。