羽月は周之助に血を奪われた。
 刃物で手首に傷をつけられ、徳利に注ぐ。
 羽月は傷がふさがるまえに一筋を拭った。指についたそのひと雫を弱った凪の唇に塗る。
「お姉ちゃん、なにを……」
 思わずぺろりとなめとった凪は、その血に力があふれていることを知った。
「少しでも元気になれるといいのだけど」
 弱々しく笑う姉に、凪は心を痛める。
「美しい姉妹愛だな」
 正一は笑い飛ばして羽月を蹴る。
 う、と痛みに顔を歪める羽月を見て、また笑う。
 羽月はきっと彼をにらむ。
「前まで反抗的な態度はしなかったのにな。外に出てなにがあったのやら」
「姉のほう、こやつはまさに命の夢見鳥、二度と外に出してはならん。子を産ませて力のある血を繋ぐのだ」
 羽月は顔をこわばらせた。
 このままここにいては、また命を搾取される。自分のみならず、その先に生まれる命までもすべて。
 羽月はとっさにかんざしを拾い、それを自分の首に刺そうとした。
 正一はそれを払い落とす。
「お前がいなくなれば妹がどんな目に遭うのか、もう忘れたのか」
 正一は羽月をまた蹴飛ばす。