***
鳳羽は羽月のための甘味と食料を買って屋敷に戻ってきた。
鳳羽も配下の者たちも花の蜜で過ごすことができるが、人間である羽月はそうもいかない。
ときおり鳳羽が出かけては食料を仕入れていた。羽月が気に入りそうな本や飾り物があればそれらも買っていた。
配下のものは力が弱く、人の世界で人の姿を保つことはできないからだ。
その日は戻ったときに屋敷の中があわただしくなっており、鳳羽は眉を寄せた。
「鳳羽様!」
走るうちのひとりが慌てて鳳羽に駆け寄る。
「申し訳ございません、羽月様が不明でございます」
「どうして」
「鞠が池に落ちて、女中が拾うための棒をとりに行っている間に姿をお隠しに」
「池か」
盲点だった、と鳳羽は池を見る。
屋敷の中のすべての鏡、姿を映しそうな硝子などはすべて撤去させていた。この世界では望めば鏡を通じて人の世の世界を見ることができるからだ。
水面が鏡のように作用して現世のことを映したのだろう。
特に羽月は妹のことを気にしていた。だから彼女は見てしまったのだろう、凪が血をとられている様子を。