「だけど、お姉ちゃん」
「大丈夫、きっと大丈夫だから」
 鳳羽を頼るしかないのだが、彼ならきっと凪も助けてくれる。
 そう思って、はたと気が付く。
 鳳羽は羽月に「凪は幸せに暮らしている」と嘘を言っていた。この状況を彼が知らないとは思えない。
 鏡を見るなと言ったのは、おそらくは羽月が鏡を覗くとこちらの世界を見て(・・)しまうことが彼にはわかっていたからだろう。どういう原理でそうなるのか羽月にはわからないのだが。
 そうして偶然にも水鏡によって羽月は凪の窮状を知った。
 これは約束をたがえたことになるのだろうか。
 凪を連れ帰ったとき、果たして彼は匿ってくれるのだろうか。
 そもそもあのまほろばは人である凪が入れるのだろうか。
 羽月もまた「人」ではあるのだが、夢見鳥の化身であり、人であって人ではない。
「とにかく、今は」
「待って、力が入らないの。毎日血を取られているから……」
 羽月は絶句した。
 羽月のときは週に一度だった。自身のケガはすぐに回復する羽月ですら血をとられるとふらついた。毎日だなんて、凪が夢見鳥の血をひいていなかったなら、とっくに命が枯れていたことだろう。
「ほう、これはこれは」
 足音とともに声が響き、羽月ははっと振り向いた。
 そこには正一とともに周之助がいた。使用人の報告で羽月が戻ったと知り、捕まえにきたのだ。
 周之助は自力で立てないのか、正一に支えられ、杖も使ってようやく立っているようだった。
 正一の顔には怒りが満ち、周之助はおぞましい笑みを浮かべていた。