羽月は困ってただ手毬を眺める。色糸を巻き付け、花のような模様が浮かび上がっている鞠は、ぷかぷかとあてどなく池に浮かんでいる。
 ふうっと風が吹き、手毬が池の(はた)に寄る。
 今なら手で取れるかもしれない。
 羽月は着物の裾を押さえながらしゃがみ、次いで袖を押さえて片手をぐっと伸ばす。手毬はすぐに手で手繰り寄せることができた。
ふと見た水面には自身の姿が映る。
 いつか大燕家の鏡で見たときよりもふっくらしているようで、幸せそうな女がそこにいた。
 羽月がふふ、と笑みを零したとき、なにもしていないのに水面に波紋が起きた。
 波紋はすぐに鎮まり、凪の姿が映る。
 どうして。
 疑問に思うが、目が離せない。
 凪は粗末な着物を着せられ、正一から折檻を受けていた。
「どうして……!」
 映像はすぐに切り替わり、凪は座敷にいた。
 その目の前には盆と徳利。
 なんども見たことのある光景に、羽月は息を呑む。
 凪は腕を切られ、その血を徳利へと注いでいた。
『お前が悪いんだぞ』
 正一の意地の悪い声が響く。
『お前が羽月を追い出したりするからだ』
 言って、正一は徳利をのせた盆を持って出て行く。