「似合っている、とても」
 鳳羽は幸福そうに羽月を見つめる。
「鏡で見てみたくなりました」
 許されないとわかりつつ、羽月は思わず言っていた。
「鏡は駄目だ」
「わかっております」
 彼が似合っていると言ってくれているのだから、わざわざ鏡で確認するまでもない。どのみちかんざしならば後頭部に飾りがあるので見ようとしてもなかなか鏡でも確認できない。
「このかんざしは常につけておいてくれ。私の力を込めて作らせた特注の品だ。必ずそなたを守るから」
 彼がそう言うのならば、否やはない。
 羽月は了承とともに微笑みを返した。

 穏やかな日々に、羽月は心安らかに過ごす。
 鳳羽が与えてくれるのは綺羅に食前方丈(しょくぜんほうじょう)幸甚(こうじん)の極み。
 彼はときおりでかけ、羽月のために人の世からいろいろなものを買ってきてくれる。
 彼が出かけている間に女中をともない、庭に散策に出たときだった。
 手毬をいたしましょう、と女中が持って来て、滝の落ちる南の池のそばでついて遊んでいた。
 数え歌を歌いながらどちらが長く手毬をつけるのか競っていたのだが、羽月の振袖の袖が鞠に当たり、鞠はぽんぽんと跳ねて、しまいにはぽちゃんと池に落ちてしまった。
「まあ、どうしましょう」
 手毬は池の遠くへ行ってしまい、なかなかとれそうにない。
「なにか棒を持って参ります」
 女中はそう言って小走りに駆けて行った。