「妹のことなら心配ない」
 鳳羽の言葉に、羽月はどきっとした。
「この前、様子を見て来た。婚家で大切にされていた」
「本当に?」
 羽月は顔を上げて彼を見つめる。
「嘘など言うまいよ」
「よろしゅうございました」
 鳳羽のやわらかな笑みに、ようやく羽月は心からの笑みを返すことができた。
「そなたにこれを」
 鳳羽が懐に手を入れ、箱を取り出す。
「なんでございましょう」
 羽月は体を起こして居ずまいを正し、それを受け取る。
 彼が銀の瞳を笑みに細めて彼女を見ているから、羽月は頬を染めて蓋を開ける。
「素敵」
 羽月は思わず声をもらした。
 中に入っていたのは銀の蝶を意匠としたかんざしだった。今にも羽ばたきそうに大きく広げられた羽の翅脈(しみゃく)は透かし彫りで、後翅の斑紋(はんもん)は宝石で象嵌されていた。その片翼からは銀の鎖が飛行の軌跡のように垂れて水晶が揺れる。目にも水晶がはめ込まれ、羽月が持ち上げると光をあびて虹色のきらめきをこぼした。
 彼は彼女の手からそれを受け取り、そっと彼女の髪に挿す。