仏教では六界があると言われるが、人の世とされているあの世界こそが修羅の世界ではないのだろうか。そこに残された凪は、本当に幸せでいるのだろうか。
「どうした? なにか憂いごとか?」
ともに庭を眺めているおりに、鳳羽が羽月に尋ねる。
羽月は鳳羽の立てた膝にそっと頭を載せた。
「幸せにひたっておりました」
「ならばなぜそのような顔をしておる?」
「まあ、どのような?」
「なにか思いつめたような、気掛かりがあるような気配だった」
羽月は曖昧に笑って返した。
愛しい人の目はごまかせないのだろうか、と思いながら。
「気鬱の原因はなんであろうな」
「あなた様と一緒におりますのに、そのようなことございません」
「隠していてもわかる」
鳳羽は羽月の髪をそっと撫でる。
その優しい手つきに羽月はいっそう胸が切なくなる。
凪は今どうしているだろう。同じように夫に大切にしてもらえているだろうか。
幼い時分、遠縁を名乗る彼らに虐げられたときにはよりそって生きて来た。風邪をひいて高熱を出しても家事を免除してもらえず、寒いさなかに冷たい水で洗い物をして、あかぎれの痛みに歯を食いしばりながら炊事をして。暑い夏には汗をかきながら熱の残るかまどの灰の掃除をして、やけどをすることもあった。
そのころの凪の癒しの力は不安定で、ケガをしてもすぐに治すことができないこともあった。羽月は自身のケガはすぐに治ってしまうものの、凪のケガや病気を治すことはできず、ただ見守ることしかできなかった。
「どうした? なにか憂いごとか?」
ともに庭を眺めているおりに、鳳羽が羽月に尋ねる。
羽月は鳳羽の立てた膝にそっと頭を載せた。
「幸せにひたっておりました」
「ならばなぜそのような顔をしておる?」
「まあ、どのような?」
「なにか思いつめたような、気掛かりがあるような気配だった」
羽月は曖昧に笑って返した。
愛しい人の目はごまかせないのだろうか、と思いながら。
「気鬱の原因はなんであろうな」
「あなた様と一緒におりますのに、そのようなことございません」
「隠していてもわかる」
鳳羽は羽月の髪をそっと撫でる。
その優しい手つきに羽月はいっそう胸が切なくなる。
凪は今どうしているだろう。同じように夫に大切にしてもらえているだろうか。
幼い時分、遠縁を名乗る彼らに虐げられたときにはよりそって生きて来た。風邪をひいて高熱を出しても家事を免除してもらえず、寒いさなかに冷たい水で洗い物をして、あかぎれの痛みに歯を食いしばりながら炊事をして。暑い夏には汗をかきながら熱の残るかまどの灰の掃除をして、やけどをすることもあった。
そのころの凪の癒しの力は不安定で、ケガをしてもすぐに治すことができないこともあった。羽月は自身のケガはすぐに治ってしまうものの、凪のケガや病気を治すことはできず、ただ見守ることしかできなかった。