存在を確かめるように、無くさないように。ときには大切な宝物をそっと抱きしめるように、ときには決して離すまいと力強く彼女を抱擁する。
 彼の愛は嫉妬すら心地いい。ただ愛だけに満たされる日々。彼とかわす言葉は自然と前世のものを使うようになっていた。
 命を司るとは言っても、そのために特段にしなければならないことは存在しない。
 いつだったか、鳳羽に聞いたことがある。
「命を司るとは、なにをするのでございましょう?」
「私たちに使命は存在せぬ。命は勝手に流れ、生まれ()ずるものだ」
「それではどうしてそんな力が?」
「神のきまぐれかもしれぬな」
「神はどこにいらっしゃるのでございましょう」
「あったことも見たこともないからわからぬ」
 長く生きた鳳羽ですらわからないものを、何度も生まれ直して記憶を新たにする彼女にわかるはずがない。
 ひとつだけ心残りがある。
 妹の凪が幸せでいるのか、それだけが気掛かりだった。
 一度は妹が命の夢見鳥で正一が運命のつがいなのかとも思ったが、鳳羽に出会った今となっては大きな思い違いだったのだとわかる。
 鳳羽に尋ねようかとも思うのだが、彼の顔を曇らせるのではと思うと口にできない。
 ここは平和で穏やかだ。ぎすぎすしたところはなく、みな仲が良い。
 まほろばのようだ、と思う。
 それゆえになおさら、妹が心配になる。