鳳羽が羽月を連れて来た屋敷は常春のように穏やかで、季節に関係なく花が咲き乱れていた。
東に大きな桜と菜の花、南に滝、そのかたわらには幹をくねらせた藤、西には紅葉に大輪の菊、北には松と鮮やかな牡丹。どれも見事に咲き誇り、枯れることがない。
白い玉砂利や大きな庭石、緑の苔が花々の華やかさを引き立てる。
屋敷は外の世界から隔絶されており、人間が入って来ることはなかった。
女中たちはみな蝶の化身であり、鳳羽の配下でもある。
鳳羽は羽月にべったりと侍り、片時も離れようとしなかった。
鳳羽は羽月を自由にさせたが、ただふたつ、鏡を見ること、門の外に出ることだけは禁じた。
どうしてなのかは教えてくれなかったが、羽月は了承した。愛しい人の禁じることなのだから、理由を聞くまでもない。なにか良くないことがあるのだから禁じているのだと、盲目的に従うことができるほど彼を信じ、愛している。
彼と過ごす日々は苦しかった羽月の過去を洗い流してくれるかのようだった。
「そなたが一時あの下等な男とでも夫婦であったかと思うと憤激をおさえられない」
彼はそう口にしたことがあった。目には地獄の炎を映したような怒りが渦巻く。
「まあ、そのような」
羽月はなだめるのだが、心のどこかでその嫉妬を嬉しく感じてしまっていた。
「いつか私たちを死が別つさだめ。それまでは決して離さない。どこへも行くな」
「行きませんとも」
必ず羽月はそう答え、鳳羽は羽月を確かめるように抱きしめる。
その口づけは甘く羽月に降り落ちる。
東に大きな桜と菜の花、南に滝、そのかたわらには幹をくねらせた藤、西には紅葉に大輪の菊、北には松と鮮やかな牡丹。どれも見事に咲き誇り、枯れることがない。
白い玉砂利や大きな庭石、緑の苔が花々の華やかさを引き立てる。
屋敷は外の世界から隔絶されており、人間が入って来ることはなかった。
女中たちはみな蝶の化身であり、鳳羽の配下でもある。
鳳羽は羽月にべったりと侍り、片時も離れようとしなかった。
鳳羽は羽月を自由にさせたが、ただふたつ、鏡を見ること、門の外に出ることだけは禁じた。
どうしてなのかは教えてくれなかったが、羽月は了承した。愛しい人の禁じることなのだから、理由を聞くまでもない。なにか良くないことがあるのだから禁じているのだと、盲目的に従うことができるほど彼を信じ、愛している。
彼と過ごす日々は苦しかった羽月の過去を洗い流してくれるかのようだった。
「そなたが一時あの下等な男とでも夫婦であったかと思うと憤激をおさえられない」
彼はそう口にしたことがあった。目には地獄の炎を映したような怒りが渦巻く。
「まあ、そのような」
羽月はなだめるのだが、心のどこかでその嫉妬を嬉しく感じてしまっていた。
「いつか私たちを死が別つさだめ。それまでは決して離さない。どこへも行くな」
「行きませんとも」
必ず羽月はそう答え、鳳羽は羽月を確かめるように抱きしめる。
その口づけは甘く羽月に降り落ちる。