表立っては売らず、口づてにそれを広め、門外不出の秘薬として隠すふりをして値を吊り上げる。
 経年劣化した鳳羽の封印が弱まり、あの日、彼は銀の蝶となって彼女の前に姿を現した。
 彼女をいざなって封印を完全に破らせ、ようやく彼は彼として姿を現すことができた。

 目を覚ました羽月は、自分を見つめる鳳羽の銀の目に労りと慈愛が満ちていることに気が付いた。
「鳳羽……鳳羽」
 名を呼ぶだけで胸に歓喜が満ちる。手を伸ばすと彼が握り返し、そのぬくもりに涙があふれる。
 母が言っていた「あの人」が鳳羽のことであると、今ならしっかりと理解することができる。
 運命(いのち)が巡るたびに自分を探し、見つけてくれる鳳羽。
「羽月」
 玲瓏たる声が耳に甘く響く。
「鳳羽、会いたかった……ずっと」
「私もだ、羽月」
 その手を頬に寄せて、鳳羽は愛おし気に押し付ける。
 羽月は大燕の祖先に捕まって命を落としたあと、なんども生まれ変わった。だが、彼は迎えに来なかった。封印されていたために来られなかったのだ。
 そして、その間、羽月はなにも知らずに寿命まで過ごした。羽月は新しい命を受けるたびに記憶をなくし、鳳羽に出会うことで記憶を取り戻す。
「ここで共に暮らそう」
「はい」
 羽月は頷き、ふたりは口づけを交わした。